気づかないことは罪ではないけれど


 忍たま六年生との合同演習があるなんて聞いた時から憂鬱だった。忍たまたちをやりこめようと意気込む同級たちをよそに、私はげっそりしていた。男に敵うはずもないのに、うちの同級はおかしい。
「名字ちゃんも手加減していないで、ガツンとやっちゃえばいいのに」
 明るくお気楽な友人の顔を思い浮かべながら、私は裏裏山で一本の木を見やった。この周辺にいるのは、私とこの木に隠れたそいつだけ。流石に無視するのもよくないだろう。
「善法寺伊作君、何で君と出会っちゃうかなぁ」
 気に向かってそう言うと、音なく一人の少年が下りてくる。黒い髪を無造作に束ねた少年。
「さぁね。僕は君の同級の百合ちゃんを探していたんだけど」
「私は君の同級の七松小平太君を探していたところだよ」
 作戦では、くの一に騙され難い七松君を、くのたま一番の武闘派である私が担当することになっていた。七松君に当たった友人には同情するべきだろうが、私にはそんな余裕はない。
 目の前の、人のよさそうな笑顔を浮かべた、実際に人のよい男のことで頭はいっぱいなのだ。
「会っちゃったものはしょうがないよね。また、仙蔵に怒られるよ」
 私は苦無を素早く取り出す。苦無と苦無がぶつかる金属音がする。力では負けるのは分かっている。この男の総合的な基礎体力は、同室の食満なんかよりも遥かに高い。何だか頼りなさげに見えるのは、不運のせいなのか人柄のせいなのか分からないが、その印象は間違っている。
 苦無を受け流しながら、容赦なく苦無をぶつけるその真剣な表情を見る。黒いつり眼の前に、揺れる黒い髪がちらつく。
 不規則に動く苦無を受け流した。そう思った。しかし、相手はその隙に私の足を蹴った。足の力が抜け、私はよろけたが、間髪入れずに苦無を持った利き腕を掴まれる。
 利き腕を掴んだ手は冷たかった。まずいと思った時にはもう遅くて、容赦なく冷たい幹に押しつけられる。首筋が冷たい樹皮に当たり、冷たい感覚が体中に広がる。足を固定され、左手を抑えつけられる。
「名字さん、小平太と当たる予定だったんだよね」
 黒い双眸が私を捉える。
「私はくのたま一の武闘派だからね」
 私は噛みつくようにそう返した。相変わらず幹には押し付けられたままだったが、押しつけられる力は最低限で、痛みは全く感じない。
「名字さん、いつも僕に手加減しているよね」
 何故、と問う彼の顔は私をからかっているようには見えない。なめられていると思っているのだろうか、その表情はやや不快そうだった。答えを返さない私が気に入らないのか、それとも苛立っているのか、私を押しつける力がやや強くなる。そのせいか、利き手に幹のとげが刺さり私が僅かに表情を歪めると、あっ、ごめん、と申し訳なさそうな声を漏らした。棘が刺さった場所への心配と、私が答えるまで離さないという決心の間で、揺れているのが表情だけですぐに分かる。
 分かりやすくて、優しい人。
「私が何で本気が出せないか考えてみやがれ、この鈍感野郎」
 ここまで言われてようやく気付いたことも、その驚いたような顔も反則なんだよ。だけど、そんなところも好きで好きで仕方がない。


御題:確かに恋だった

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