馬鹿ですね、あなただからですよ(あなたじゃなきゃ、ここまでしない)


 忍務の際に会ってしまった忍者は強敵だった。格が違う、と認めざるを得ないほどに。
 血の飛沫が飛び散った。呻き声がする。敵か味方か。翻った衣は臙脂色で、風を切った髪は男にしては綺麗で。
 体の全体像が見えた時に悟った。くの一だ、と。
「誰だ?」
 血の飛沫が再び飛び散り、断末魔の叫び声が響く中、臙脂色の影は振り返った。
「名字名前です」
 忘れるはずもなかった。顔は随分と大人びていたが、かつての面影を残していた。
「食満さん、私はくの一になりました」
 返り血で真っ赤に塗れ、俺の殺した忍者を踏みつけて、真っ赤になった苦無を握っていた。
「名前か。久しぶりに見たら、物騒なくの一になったじゃないか」
 忍術学園にいて、三歳の頃から忍具に触れてきて、くの一にならない方がおかしいが、いざ目の前にしてみると、なんとも言い難い気持ちになった。


 ずっとずっとあなたを探していた。そして、ようやく見つけた。
「名前か。久しぶりに見たら、物騒なくの一になったじゃないか」
 昔よりも目がさらに鋭くなっていて驚いたが、困ったような笑顔はあんまり変わっていなくて嬉しかった。
「私はあなたの背を見て育ったんですよ。当たり前じゃないですか」
 私の入った年から、くのたまも委員会活動に参加することになった。用具委員会に入った私は、気が付いたら会計委員と犬猿の仲になっていて、彼女に負けないようにしようとしていたら武闘派と呼ばれるようになって……
「とりあえず、脱出するか……って何で苦無仕舞うんだ」
 苦無を懐に仕舞った私に食満先輩が尋ねた。私は笑う。
「私の得意武器は苦無じゃなくて、鉄双節棍なんですよ」
 にやりと笑えば食満さんは呆れた顔をした。そんな顔をされたって仕方がない。私だって四年時に全ての武器を試した時に、鉄双節棍の成績が一番よかったことに驚いた。
「打撃武器のくの一か……」
「打撃武器のくの一になっちゃったんでしょうがないです」
 私は食満さんと抜け道を走り抜ける。案の定、敵と対峙してしまって……
「強いんだろうな?」
「ええ、これでも学園一の武闘派と呼ばれていましたから」
 溜息が聞こえた気がするが気にしない。私は愛用の鉄双節棍を構える。
 さぁ、私の相棒よ、風を斬れ。


 城を抜けると、食満さんとよく似た格好をした忍者がいた。食満さんと同じ忍者隊の人らしい。
「おい、食満。そのくの一なんだ」
「十年以上前に戦場で拾ってきました」
 敵であるとは思われていないらしい。それもそのはず。強行突破したためお互いボロボロで、二人で支え合って何とか脱出したのだ。
「忍術学園出身の名字名前です。食満さんたちに拾われました。今はフリーのくのたまやっています」
 会釈をすると、忍者は布で覆われた顔で私を見た。
「強いのか?」
「くのたまの中では武闘派です」
 強いとは言わない。まだまだ私はひよっこだ。しかし、私はまだ若い。そして、弱いわけでもない。
「うちの忍者隊に入るか?」
 忍者は軽くそう言った。
「良いんですか?」
 私は思わず聞き返した。食満さんと同じ忍者隊に入れるなら願ったりだ。
「組頭、何をお考えで?」
 食満さんがやや声を荒らげて尋ねた。この忍者は組頭らしい。組頭は軽く笑って受け流した。話が通じないことが分かったのか、食満さんの矛先は私に向いた。
「お前もこれが拾われた恩返しとかだったらお断りだからな」
 私のことが心配なんだなぁ、と思いながら溜息を吐く。
「食満さんは馬鹿ですね」
 この人は勘違いをしている。
「あなただからですよ」
 ただの恩返しじゃないんです。恩を返すべき人はあなた以外にもたくさんいるんです。ただ、あなただから私はあなたについていきたいんです。
「こりゃ、おもしろいことになったなぁ、食満。毎日楽しくなりそうだ」
 組頭が笑い、食満さんがげっそりした顔をした。

馬鹿ですね、あなただからですよ(あなたじゃなきゃ、ここまでしない)

御題:確かに恋だった

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