本当にちゃんと確認したのか?


 昨晩はあんなに疲れていたのに、朝はいつもと同じ時間に起こされた。布団から出たくなかったけど、けまさんに布団を引っ剥がされて、嫌々起きた。
 やっぱり体は重くて、心なしか頭も重かった。
 こういう時に、けまさんを止めてくれるいさくさんは朝から保健室に詰めているらしい。けまさんは私に午前中の仕事を指示した。
 午後から実習に出かける五年生のための用具の確認。
 午前中に休んで、午後に片付ければいいと思ったいたのに、これでは休む暇もない。
「疲れているところ悪いが、お前にしか頼めないんだ。すまない」
 けまさんは本当に申し訳なさそうな顔をしていて、私は頷くことしかできなかった。五年生の実習のための準備。大切な仕事だって知っていた。
 五年生実習用の用具を確認して、所定の場所まで運ぶ。いつもはそれほどつらいとは思わないのに、なぜかとてもきつかった。頭がくらくらする。
 仕事はお昼休みまで続いた。けまさんは午前も午後も実習でいない。私は一人で食堂に行こうとしたけど、食欲がしなくてやめた。
 午後はどいせんせいに頼まれていた火薬庫の掃除をやっていた。けまさんから頼まれた仕事も断れないけど、どいせんせいに頼まれても断れない。掃除を終えて部屋から出ると、伊助君がいた。五年生の竹谷さんがいないから、一年生だけで毒虫を探さないといけないらしい。私は頭が重くて寒気がしたけど、伊助君は困っているようだったから手伝った。
 夕方になっても毒虫は見つからない。体が冷えてぶるぶると震えてきた。夕ご飯の時間になって、食堂に戻った。食堂は暖かいはずなのに、なぜか寒かった。
 でも、今日一日頑張った。けまさんは褒めてくれるかな、とちょっとだけ期待をしながらけまさんを探した。
 私は、けまさんを見つけると、けまさんのところに向かって走った。いさくさんは隣にいなくて、けまさんはひとりでご飯を食べていた。
 しかし、けまさんは私を見つけると、怖い顔をした。
「名前、五年の実習の道具、数が足りなかったそうだ。名前、本当にちゃんと確認したのか?」
 確認した。でも、頭が痛くて、体がだるくて、いつもよりも集中してできなかった。でも、そんなのは本当はいけない。
「したよ」
 けまさんの顔がひきつった。怖い。嫌だ。目が熱くなって、視界が歪んでいく。頭が締めつけるように痛くなる。ふらふらと地面が揺れ始める。
「名前、ちゃんと確認すれば、数が合うはずだろ」
 けまさんが声を荒らげる。けまさんの顔は見えない。私は膝を折って座り込んだ。その時だった。
「どうしたんだ、留三郎……って名前?」
 いさくさんの声が聞こえた。
「五年の実習の道具の数を間違えたらしくてな」
「そうじゃないよ。留三郎、何で名前を休ませなかったの? 酷い熱だよ」
 いさくさんの慌てた声。私は熱があったんだ。通りで頭がくらくらしていると思った。けまさんの、間が抜けた声が聞こえた。けまさんも気づいていなかったみたいだ。
「悪かったよ。君は分からないんだよね」
 いさくさんの溜息が聞こえた。
「悪かったな、名前」
 大きなてのひらが私の頭をなでた。私はその手を辿って腕を掴んだ。こういうときのけまさんは私を甘やかしてくれる。頭はくらくらしているけど、心の中に明かりがともったみたいに気持ちが楽になった。
「無理させられて挙句の果てに怒鳴りつけられても、留三郎の方が良いってさ」
「そのくらいは分かるからな、伊作」
 大きな腕に持ちあげられて、体が横になる。すっと頭の痛みが引いた。私は目の前に広がるぼんやりとした緑色に顔を押し付けた。かたいけどあったかくて、とっても幸せな気持ちになったから、顔を上げて笑った。すると、濡れた世界に大きな手がふってきて、私の頭をやさしくなでた。

本当にちゃんと確認したのか?
御題:確かに恋だった

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