倍返しにしてあげる、覚悟なさい


 次回の委員会開催にあたって、図書委員が一人欲しい、と我らが作法委員長立花仙蔵先輩に言われた。本の扱い方を作法として身につけるそうだ。私の弟は図書委員会にいる。私の弟だ。当然作法委員にいるべきだろう。作法委員への転入を考えてもらうきっかけになる絶好の機会だ。私は弟に声をかけてくる、と立花先輩に言い、作法室を後にした。立花仙蔵先輩が、溜息をついていたのは気のせいだ。きっと、先輩の同室のギンギン野郎に対してだわ。私には関係ない。
 私は図書室に辿りつき、そして愛する弟である怪士丸を呼ぼうと、部屋の中に入ろうとした。しかし、それを阻む者がいた。
「通しなさいよ、雷蔵」
 私の同学年の忍たま、不破雷蔵は、作法委員としての私の話を聞いてからも、無理無理、と首を横に振り続けた。何が無理なのかわけがわからない。
「だって中在家先輩が怒るから」
 何か別のことを言おうとしていたのか、頬をポリポリとかいてから、不破雷蔵はそう言った。
「いつも怒ったような顔をしているじゃない」
 学食で見かける先輩の顔は、いつも怒ったような顔だ。あれで優しいと言われているのだから、怒るはずがないだろう。
「怒ってないから、あれ怒ってないの、中在家先輩の上機嫌な顔だから」
「それに、私の前ではいつも笑っているよ」
 怪士丸をとり返すために、委員会の時間に必ず図書委員会に交渉に来る私を、中在家先輩は笑って許してくださる。
「それは怒っているからね。ねぇ、名前。お願いだから、今日は……」
「私の弟を返してくれれば引き下がっても良いけど」
 ほら、さっさと出しなさい、というと、雷蔵は少し視線を逸らし、そして何か言おうと口を開きはまた閉じ、そして結局絞り出すように言った。
「それは駄目だって」
「だって、これを切欠に怪士丸を作法委員に入れるチャンスなんだよ」
 私の弟は品がある。作法委員にこそふさわしい。
「だから駄目なんだよ」
「だからって何よ」
 これ以上もだもだしていると、手裏剣投げるわよ、と言おうとした、丁度その時だった。
「あ、あのさ、それ、僕じゃ駄目?」
 さっきから言いたかったことはこのことだったのだろう。口をパクパクさせて、言おうか言うまいか迷って、思いっきり息を吸って、目をギュッと瞑って、不破雷蔵は勢いよくそう尋ねてきた。そして、恐る恐る目を開け、硬直したまま私の表情を窺っている。あ、あ、と何か言い訳をしようとしているのか、何なのか、必死に言葉を探している。勿論顔は真っ赤だ。もう紅葉は始まっているというのに、とっても暑そうだ。
 優秀と言われる不破雷蔵が、なかなか楽しいことになったじゃない、と冷静な振りをする。私の方が、頭の中が真っ白になっているとか、認めてやらない。
「倍返しにしてあげる、覚悟なさい」
 今日は撤退してやるけど、と捨て台詞を吐いて、私は顔を隠すようにして走り去る。秋風が涼しいとか言っていたのが嘘みたいに、顔が熱い。
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