空が遠いね、きれいだ


雨が降っていた。その雨の中で名前は立ちつくしていた。門から遠ざかっていく影を見送るまでに、顔はぐちゃぐちゃになってしまった。体は雨のせいでひどく冷たく、そして重い。雨特有の泥の匂いが、強烈な梅の匂いと混じってふき溜まっていた。名前は動きたくなかった。門の外の道の向こうに、もう人影はない。
 空は低く、そしてぐちゃぐちゃになった目から見える視界はひどく狭い。雨の降る音のせいで、他の音はほとんど聞こえない。
 だから、乱太郎ときり丸としんべヱが目の前までやってくるまで、名前は三人が走ってきていたことに気付かなかった。
「名前、どうしたんだ」
「こんなところにいたら、風邪をひくよ」
「早く、屋根のあるところに行こう」
 笠をかぶせられた、と名前が思う間もなく、すぐに視界が真っ黒になった。黒い布が顔を覆ったのだ。スカーフだ、と分かるまでにそう時間はかからなかった。温かいスカーフがじわりと濡れた顔を乾かして、ひんやりとした水分を十分に吸った後に取り払われる。
 はっきりとした視界に見えたのは真剣なきり丸の顔、そして、その脇に焦った乱太郎と、困ったようなしんべヱの顔だった。
「友達がね、退学しちゃったの」
 名前がそう言うと、乱太郎としんべヱは顔を見合わせた。しかし、きり丸だけは表情一つ変えずに、名前の手を強く引いた。
「戻るぞ」
 そして、名前の手を引き続ける。乱太郎としんべヱは戸惑いながらも、きり丸と名前についていった。向かった先は忍たまもくのたまも利用ができる保健室。休日のためなのか、保健室には誰もいない。くのたまの子たちに着替え持ってきてもらうね、としんべヱと乱太郎が慌てて保健室から出て行き、名前ときり丸は保健室で二人きりになった。
 名前は手ぬぐいで体をふいていると、きり丸が火鉢で火をおこしていた。部屋はすぐにふんわりと暖かくなったが、なかなかくのたまたちが見つからないのか、乱太郎たちは戻らない。
「雨の中に一人でいるのはあんまり良くないぜ」
 ぽつり、ときり丸が喋り出した。
「ただでさえ、視野が狭まるんだからな」
 襖から日が差し込んできたのか、部屋の中が少し明るくなっていた。狭い視野には人が映らない。
「きりちゃんに言われたくないなぁ」
 知っているから、言えるんでしょ、とそう返せばきり丸は少し怒ったように言う。
「俺も名前には言われたくない」
 そして、はにかむように笑った。
 いつの間にか空は青く沈み、乾いたまぶたの下から見える世界は広かった。似た者同士なんだな、と笑うきり丸の後ろにある開いた襖の向こうには、食堂に向かう忍たまたちが見えた。
 あっ、虹だ、という知らない忍たまの声がした。
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