まだ俺がついてないとダメだなお前は


 戦場で途方に暮れていた私を助けてくれた二人のお兄さんは、けまさんといさくさんといった。けまさんは怖い顔をしているけど優しくて、いさくさんはいつも優しいけどたまに怖い。でも、私は二人のことが大好きだ。
 けまさんと用具委員会の人たちと一緒に、用具整理をした。私はまきびしの手入れができるから、まきびしの手入れをしていた。けまさんは一番大変な石火矢の出し入れを一人でやっていた。高い棚から石火矢を出し入れするのは大変なだけじゃなくて危ない。
 けまさんはいつも一番大変な仕事をやる。だから、私も頑張っていた。で、眠くて眠くて仕方がなくて、結局けまさんに手伝ってもらうことになってしまった。
 手入れを終え、目を擦りながら部屋に戻ると、いさくさんが出迎えてくれた。
「留三郎、こんな遅くまで名前を働かせていたのかい?」
「文次郎の馬鹿が物壊さなければ、用具点検がこんなにずれ込むこともなかったのにな」
 いさくさんの声は怒っていたけど、けまさんは溜息をついてそれを受け流した。いさくさんとけまさんはあまりケンカをしない。いさくさんが怒った時はけまさんはそれを受け流す。普段はケンカっ早いんだけどね。
「名前、風呂入るぞ」
 私がいさくさんが敷いてくれた布団に入ろうとすると、けまさんが布団を思いっきりめくった。折角いさくさんが敷いてくれたのに。
「疲れたからもう寝たい」
 お風呂は嫌い。熱いし疲れるし、面倒臭い。ただでさえ嫌いなのに、こんなくたくたの日には入りたくない。
「駄目だ」
 けまさんは私の浴衣を出すと、私を立たせた。けまさんの笑っていない時の顔は怖い。
「留三郎、湯船に入ると体力を消耗するだろう」
「甘やかすと駄々こねて入らなくなるだろう」
 けまさんはまた溜息を吐いた。子どもだけど子ども扱いされるのは嫌い。
「こねないもん」
 私は背伸びしてけまさんから浴衣を奪い取り、乱暴に障子を開けた。体が重いけど気にしない。
「一人で入る」
 そう言い捨てて部屋から出る。部屋の外は真っ暗で、廊下には誰もいない。けまさんと歩いていたときはこんなに怖くなかったのに。
 真っ暗な廊下を歩く。体は重くて廊下は寂しい。そして、何故だか悲しかった。
 誰もいないお風呂場の前まできた時には目が熱くなってきた。足と腰に力が入らない。今日の落とし穴埋めのせいかもしれない。頭も痛くなってきた。
「お風呂入るんだな。良い子だ、名前」
 頭の上に大きな手が乗せられる。振り返るとけまさんが立っていた。
「まだ俺がついてないとダメだなお前は」
 けまさんは呆れたように笑った。少しだけいらっとしたけど、けまさんの笑顔を見たら、どうでもよくなってしまった。

まだ俺がついてないとダメだなお前は

御題:確かに恋だった

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