初恋


【注意】女主×食満


 くのたまにしては温厚だと言われてきた。だからなのだろう。忍たまたちは女に飢えているらしく、特に、容姿が優れているわけでもなく、器量が良いわけでもなかったが、忍たまたちに一夜を過ごそうと誘われることは何度もあった。
 勿論、丁重にお断りしたが。
 恋などしたことがなくて、勿論忍たまなんて恋愛対象になるはずもないと思っていた。素直になれない恋心を抱く友人たちを可愛いなぁ、と思いながら、幸せそうに男の隣を歩く町娘の笑顔を見て幸せな気持ちになる。私にとっては恋は無縁のものだった。
 忍たま長屋の屋根の上からは学園長の庭園が見える。入浴後、私はその庭園を眺めるのが好きで、よく涼みに行っていた。流石に六年生にもなれば、先生方にも気付かれずにゆっくりと涼むことができる。勿論、先生が長屋の方に来たらばれてしまうが、今までに一度もそのようなことは起こった試しがない。
 屋根の上でごろんと横になっていると、今し方風呂から上がってきたであろう数人の忍たまたちの話声が聞こえてきた。ぼんやりと聞いていると、私の話をしていることが分かった。私をどうしたら落とせるのか、話をしているらしい。こんな落とす価値もない女をなぜ落とそうとするのか、男は馬鹿だ、とそう思いながら聞いていた。
「あの人、押し倒してやったらそのまま言うこと聞きそうじゃねーの」
 私は体を起こし、声のする方に目をやった、
 四年生だ。紫色の服を見て学年を確認する。黒く短く結った柔らかい髪、高くない身長、と特徴を記憶した。
 そして、静かに長屋の屋根を移動する。移動する場所は井戸の近くだ。
 井戸にやってくる忍たまたちをぼんやりと眺める。しばらくして、ふらふらと一人でやってきた標的の目の前に姿を現す。
「名前先輩、今夜はお暇ですか?」
 にやりと笑い、少年はそう尋ねた。
「ええ、食満君。お相手してくれるの?」
 私は、穏やかだ、とそう評される顔でふわりと笑った。



 長屋には空き部屋がある。その一室で、私は仰向けになったまま、無表情のまま上を見上げる。体は私よりも大きいかったんだ、などと呑気に考えながら、にやりと得意げに笑う彼を見ていたのだ。そして、そのまま少し力を入れて、腹部をける。痛みに表情を歪めている隙にそのまま体重をかけた。手首を掴み、そのまま馬乗りになる。最初はただの出来心だった。流石にこの年で年上を舐めてかかるような馬鹿だと、この後に酷い目に遭うだろう、とそう思っただけだった。同じ忍術学園に在籍する先輩としての、この小生意気な後輩へのちょっとした善意であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。
 唇を噛みしめ、釣り眼を潤ませ、健康的な肌から血の気が一瞬でなくしていく様を前にして、私の頭は何かに殴られたように真っ白になった。こんな感覚、一度もしたことがない。堅く結んでいたはずの口元は、どんどんと緩んでいく。
 人はこんなに魅力的な表情ができるのか、と。
「その顔、最高」
 その言葉は、もう私の理性から外れたところにあった。唇から流れる血を舐めると、抵抗の声を上げる。全てが魅力的。
 ああ、これが恋というものか。私は笑みを深めた。



 久しぶりの忍術学園。小松田さんに、元気そうで何よりだ、と喜ばれ、そのまま山本先生に挨拶し、軽い足取りで向かう先は用具倉庫。
「先輩、何しに来たんですか」
 緑色、最高学年の制服で、たくさんの後輩たちに囲まれて作業をしていた彼は、私を見るなり、顔を思いっきり顰めて見せた。
「君に会いに来たんだよ」
 今日は此処で泊まらせていただくから、とそれだけ言ってその場を後にする。背後から聞こえてくる会話を聞き、楽しみにしていた今晩のことも考えながら。
「食満先輩、穏やかそうな人ですね」
「お前ら、絶対近づくなよ。絶対だぞ。食われたくなければ近づくなよ」
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -