甘やかに誰か


【注意】特殊設定/前世/女主×滝夜叉丸


 あなたは知らないでしょう。
 美しいあなたを見つけた時、私がどれだけ嬉しかったかなんて。


 成績も優秀というほどではないが悪くはなくて、優しくて面倒見の良い名字先輩と平滝夜叉丸先輩は仲が良い。
「名字先輩は、なんであんな屑と一緒にいるんですか」
 食堂でお茶を飲んでいる名字先輩にそう尋ねると、名字先輩はすっと目を細めて穏やかに笑った。
「何でだろうね」
「あんな人と一緒にいてよくやっていけますね」
 乱太郎がそう言った時、あっ、と名字先輩が小さな声を上げた。
「噂をすれば、だね。滝夜叉丸」
 振り返れば、いつになく機嫌の悪そうな平滝夜叉丸先輩がいた。先輩が不機嫌だなんて珍しい、と思ったが、名字先輩は全く動じていなかった。名字先輩は滝夜叉丸先輩の手を取り、じゃあね、と言って去っていった。


 彼の手を引いて歩く。人気のない廊下まで来たところで、彼は漸く口を開けた。
「今日は一体何の用ですか?」
「今日はご機嫌が悪いね。何か用がないと君を呼びだしてはいけないの?」
 にこやかにそう尋ねてみるが、彼は相変わらずの仏頂面だ。
「あなたが傍若無人だということばらしますよ」
 傍若無人なのは認めるが、彼は私の何が不満なのだろうか。自慢話をする口に色々突っ込んだことだろうか、寝起きを狙って襲ったことだろうか。
 どちらにしろ、生意気だなぁ、と私は思った。
「勘弁してよー。そんなことされたら」
 懐から二枚の札を取り出し、彼の綺麗な手を離して振り返る。
「君の前世をばらしたくなっちゃうよ、平滝夜叉姫」
 空気の流れが変わる。札は青白い二匹の狐に変わり、狐は彼の手足に絡みつく。
「大宅中将光圀……」
 彼が忌々しげにつぶやいたその名前こそ、私の前世の名前。父平将門を殺されて妖術使いとなった五月姫、滝夜叉姫を朝廷の命により成敗した陰陽師。
 あの美しい姫君が成仏し、昇天していく様を見て、どれだけ「私」が不甲斐ない気持ちになったかということを彼は知らないだろう。
 それが「私」の最初で最後の恋だったことも。
「甘やかしてくれれば許してあげる。私は今回女の子だからねー」
 動けない彼に勢いよく抱きつくと、手足を拘束された彼はそのまま開いていた空き教室に倒れ込むことになる。私は彼と一緒に倒れながらも狐を札に戻す。
「あなたはそうやっていつもいつも……」
 一緒に倒れた私の下敷きになった彼は困ったように私の頭を撫でた。私は、彼が溜息を吐きながらも口元を緩めているのを確認してから、さらに強く抱きついた。
 用がなかったなんて嘘。最初からこうやって甘やかしてくれれば何もやらなかったのに。

落乱で今日の夢お題

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -