目を瞑っていても、私には君が分かるよ


 聴力を鍛えるために、六年生の忍たまが目隠しをしているらしい。少しからかいに行ってやろうと思ってしまうのは、同学年のくのたまの性だ。
 私は目当ての人物のいる医務室に忍びこんだ。目隠しをして過ごさないといけないのに、医務室に控えているところが何とも彼らしい。簡単な調薬をしているようで、薬草を摺る音が響いていた。私は気配を消して彼に近づき、背後からゆっくりと肩に触れた。
 すると、彼は私の手首は素早く掴んだ。
「名字?」
 私の手首を掴んだ善法寺はそう尋ね、私の手首を強く引いた。私は彼の背中にぶつかるのを避けようと、やや体を起こして彼の肩に顎をのせた。
「やっぱり名字だ」
 彼はそう呟いて私の方を向いた。分かってしまったんだ、面白くない、と思って舌打ちをすると、彼は大きな手で私の腕を掴んだ。
「君がどう思っているのか知らないけど」
 彼はそう言いながら私を引き寄せた。
「目を瞑っていても、私には君が分かるよ」
 耳元でゆっくりと囁かれ、思わず体が強張る。元々柔らかくて落ち着いた声だが、こんなに優しく囁かれるなんてことは滅多にない。私は驚いて、彼の表情を見るために顔を上げようとした。すると、彼は透かさず続けた。
「手首を掴んだ時、尺骨と橈骨が名字っぽいと思ったんだけど、やっぱり決定打は僕の肩に当たった下顎骨だったね」
「変態くさい」
 私と触れ合っている時、一体何を考えているのかと問いたくなるが、彼の言いたいことさえ分かれば、後付けされた変態くさい科白も照れ隠しにしか聞こえない。むしろ、このこの変態くさい科白こそが、何よりもの根拠になる。
「私だって分かるよ。だって、善法寺薬草臭いから」
 そう返すと、善法寺は子どもっぽくニィっと嬉しそうな笑みを浮かべて、私を強く抱きしめた。
 照れ隠しに照れ隠し。お互い素直じゃないんだよ、私たちは。


企画月が綺麗ですね様に提出

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