瑠璃色の 空に隠した 恋心


 格子の向こうにやってきた見張りは、何も言わずに私の牢の前に座った。私は見張りの不自然な動きに体を強張らせ、その男をじっと見た。
「名字……だよな?」
 深くかぶった笠の影から出てきた顔は、予想外のものだった。
「うん」
 特徴的な釣り目の同級生の忍たま。それも、今まで散々馬鹿にしてきた六年は組の忍たまだ。
「とりあえず、俺の予備貸すからそれを着てろよ。さすがに今の格好はまずい。文句言ってもそれしかないからな」
 平然と羽織を差し出してくる。文次郎なら動揺の一つぐらいしそうなのに、この男は平然としている。私の本来の姿を見たのに関わらず。
「何も言わないの?」
 羽織に袖を通し、牢から出る際に尋ねてしまった。
「えっ、今回単独だろ? 伊作なんか、俺と組んでもよく捕まってる」
 六年は組の食満留三郎は、やや不思議そうにそう言った。そんなことは訊いていない。六年は組を散々馬鹿にしてきた六年い組の名字名前が実は女だったことについて、この男は何も思わないのだろうか。
 そんな私の心も知らず、彼は通路の奥にある階段に向かって歩き始めた。
「まぁ、のんびり帰ろうぜ。新しい女中が不運で、間違えて料理に睡眠薬を混入してしまったらしい」
 そう、六年は組は忍ぶことを知らない、というのが六年生の共通認識だ。忍びこみ、人知れず忍務をこなすなんてことはしない。いつもこうやって大掛かりにやって、やりすぎで補習だ。
「それに、戦やってるだろ。伊作が帰りに通りかかって、救護しているだろうから、それを拾っていく。どうせすぐには帰りたがらないだろうからな」
 困ったやつだ、と言いながらも彼は笑顔を浮かべる。その笑顔を見ていたら、私の口元も綻んだ。
「私が女だって何時気付いた?」
「今さっき」
 細い階段を上る背に、そう問うと短い答えが返って来た。しばらく続く言葉を待ってみるが、全く何もない。
「本当に何にもないの?」
 静まり返った屋敷から出た時、私はそう尋ねた。彼は不思議そうに首を傾げたが、私に意図があることぐらいは分かったらしい。テストの度に赤点を叩き出す頭で必死に何かを考えている。
 私は、彼が真っ先にそれを言わなかった時に諦めておくべきだった。
「お前は……」
 彼は思案の果てに、真顔で私の顔を見た。
「もう少し笑った方が良いと思う。そっちの方が絶対良いって、さっき笑っているところ見て思った」
 叫びたい衝動を必死にこらえる。他意はないのだろう。それがまたこの衝動を大きくする。
 私は彼の釣り目から逃れるために、雲ひとつない瑠璃色の空を眺めるふりをした。


企画伊呂波唄様に提出

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