死の女商人

夏休みタソガレドキ潜入の段


 オーマガトキとの戦に備えるために、武器の調整をした。古くなっている忍器などは買い替えなくてはいけない。タソガレドキの組頭としてそれを城主に申し出ると、城主は忍器商人を連れてきた。
「私は堺から来ました。忍具をお求めということでよろしいでしょうか」
 やってきたのは女商人だった。背負っていた木箱を降ろし、なめらかな手で蓋を開ける。箱の中にずらりと忍器が並んでいるのが見えた。苦無から寸鉄まで、様々なものを箱から取り出して並べた。
 着物から覗く腕には、重い忍具を背負う商人だとしてもまずつかないような綺麗な筋肉がついていた。一瞬男ではないかと疑ってしまうような女らしくない腕だ。
 しかし、このような女の筋肉のつき方は職業柄見慣れている。
「君、くノ一かな」
 そう問うと、女は僅かに目を丸くした後、目を細めて笑った。
「流石ですね。御見逸れ致しました」
 流れるようにそう答える。
「私もくノ一を志しておりましたが、何せこの顔ですと色の術も使えません。ですから、くノ一にはならず、くノ一になるために学んだ忍具に関わる商いをしております」
 投箭を並べていく顔を見る。確かに、色で人を惑わすには、聊か色気が足りない。女というよりは少年に近い。
「よく手入れをしてあるね」
 女が並べた忍器は全てが新品ではなかった。しかし、どれもしっかりと磨かれていて、新品よりも良い物もある。新品ではない物には、紫の紐が括りつけられていた。おそらく、安く提供してくれるのだろう。
「ええ、忍器の手入れは大切ですから。特にこのような中古品も、手入れを怠らなければ使えますから」
 女商人は緩やかに笑った。
「私でよろしければ、今御持ちの忍器の手入れも致しますよ」
「しばらくは此処にいてくれるんだよね」
 そう尋ねると、女はゆっくりと当てて頭を下げた。
「ええ、お望みあれば」
 部下に忍器の手入れをさせる余裕もないし、できる限り新しい忍器を購入せずに済むのはありがたかった。
 それに、もしこの女が間者だとしても、始末するだけの力がこちらにはある。この女はまだまだ若い。本当にくノ一だったとしても、実力は高が知れている。
「ところで、君の名前は?」
「五十嵐伊勢と申します」
 紅を差した口をゆるりと歪ませ女はそう名乗った。


 久しぶりに実家に帰った。五年ぶりの帰省だ。漸く仲直りしたのね、と両親に褒められ、久しぶりに家族揃っての食事を取ったところに、その手紙はやって来た。
「タソガレドキ忍軍の矢羽音の解読表作成って……」
 宿題だ。信じがたい宿題だった。無理だろ、これ。どう考えても、と叫びたい衝動を抑えて、伊作の方を見る。
「伊作は宿題なんだった?」
「オーマガトキの旗取ってくる宿題。楽で良かったなぁ」
 似たような宿題を四年生の時やった記憶がある。私のものと見比べる。どう考えても私の方が難しい。伊作の宿題はオーマガトキの陣か城に忍びこめば簡単だが、私の場合忍軍、それもタソガレドキ忍軍に長期に渡って忍びこまないといけない。
「これさ、私と伊作の宿題間違えたんじゃない?」
 ほら、と自分の宿題を見せると、伊作は目を丸くした。
「いや、流石にこれは僕も無理だよ。こんな宿題、仙蔵じゃなきゃ無理だ。でも、きっと私のと間違え……」
 私はその時気付いた。もし、私んが伊作と宿題を交換すれば、伊作がタソガレドキ忍軍に忍びこまないといけない。それは困る。
「じゃあ、タソガレドキに行ってくるから」
 私は荷物を持って走りだした。元々持って帰っている忍具は少ないため、まとめてあったのだ。
「ちょっと待って。先生に……って無理か……ちゃんと無事を知らせる手紙を書いてよ」
 止めるのを諦めるのが兄らしい。私は兄の声を聞きながら、タソガレドキ領へ向かった。
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