六年ろ組

委員会対抗戦の段


 七松先輩の動きは速い。速いだけではなく重い。苦無にこれだけの重さを加えるなんてありえない。そのありえないことを当然のようにやってのけるのが七松先輩だ。
 寸鉄による不意打ちが得意な久々知の補助があっても、先輩との打ち合いは辛かった。食満先輩といい、七松先輩といい、六年生には力で攻める人が多い。
 先輩の一撃を受けた後は一々体勢が崩れる。久々知が不意打ちを仕掛けている間に、私は何とか体勢を整える。
「五十嵐、その制服の切れ方は袋槍かぁ?」
 余裕綽々な七松先輩はそんなことを尋ねてくる。
「嫌なこと思い出させないでくださいませんか」
 忍び刀を振って、苦無を流す。
「すまんすまん」
 絶対思っていないだろう、という笑顔で七松先輩はそう言った。
「五十嵐、足を引き摺っているな? また説教か?」
 この状態で私の足の怪我に気付くなんて信じられないが現実だ。
「いえ、これは食満先輩の後輩からの贈り物ですので、説教されたら逆ギレします」
 そうか、と先輩がニカッと笑った。何だかんだで、こっちの言い分はきちんと聞いてくれる先輩だ。
 それに、本当に怒ったら怖いのはもう一人の方だ。滅多に怒らないから色々やらかせるが、滅多に怒らない奴を怒らせるとまずいことになる。
 七松先輩の苦無をよろけながら流した丁度その時だった。首に縄が絡み付く。久々知が私の名前を強く呼んだ。七松先輩は私に背を向け、久々知に苦無を持って襲いかかる。私は縄を忍び刀で切って、七松先輩を追おうとした。
「……動くな」
 私の忍び刀よりも先に、首元に当てられたのは冷たい刃。私は動きを止めた。私の耳元で低く囁けるほど背の高い忍たまは限られる。
「中在家先輩、六年生委員長は組別ですか?」
 正直、そんなことを呟いている暇はない。私は良い。死にはしない。問題は久々知だ。い組は嫌いだが、怪我をされて良い気持ちはしない。
 視線は包帯の巻かれた足にいく。ほどけそうでほどけない包帯。
「いやいやいや、体育と図書は反則だろう」
 横を見ると、竹谷が不破と平に挟まれて慌てていた。こっちは死にはしないだろう、と視線を前に戻すと、七松先輩が久々知を押し倒して、懐から巻物を奪っていた。七松先輩が巻物を掲げると、私の首元から刃が離れ縄が抜けた。私は慌てて久々知に駆け寄る。
 とりあえず、生死の確認をしなければいけない。何しろ七松先輩だ。
「……少し赤くなっている。すまん」
 ぼそぼそとした言葉が背後から聞こえた。
「全然痛くないんで、気にしないでください」
 ニィっと笑って中在家先輩の方を振り返った。中在家先輩は相変わらずの無表情だったが、大丈夫だろう。
「久々知、生きてる?」
 久々知を揺すり起こすと、久々知はゆっくりと瞼を開けた。
「巻き物盗られた」
 久々知は僅かに申し訳なさそうな顔をした。私に俯かれても困る。
「それは残念だったね」
 残念なのは私ではなくて久々知だ、と。
「とりあえず、あれを何とかしないと」
 おさらく巻物を取られたであろう竹谷と目を合わせる。
 私たちは火薬委員と生物委員を集めて、竹谷と久々知と下級生を庇うようにして騒ぎの中心を眺めた。そこにはいつの間にか、会計委員会がいた。会計委員会と体育委員会が争い、図書委員会が体育委員会を援護する。
「五十嵐、お前何とかしろよ」
「無理」
 竹谷の言葉に私は即答した。六年生の取っ組み合いに突っ込んでいく勇気は流石にない。それは勇気ではなく、無謀という。うちの学園の六年生、色々とおかしい。
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