二人の嫌い

委員会対抗戦の段


 悔しかったのはあの人が兄を見ようとしないことだった。あの人は伊作が嫌いだから認めない。嫌いだから伊作を見ようとしない。見ていないのに決めつける。そのことに気付いていない。そういうところが大嫌いだった。
 だからこそ悔しかった。あなただけには感情的だと言われたくない。そんなことにすら気付かないあなたに、兄や食満先輩を馬鹿にされたくない。ただ、私はあまりにも弱くて、感情的になっても勝てなくて、それが悔しくて仕方がなかった。
 そんな自分を二人を批判される材料にされるなんて本末転倒だ。二人に申し訳なくて、不甲斐ない自分が悔しくて仕方がなかった。


 目が覚めると、日が登っていた。
「伊勢ちゃん起きた? 大丈夫? もうみんな起きてるよ」
 斉藤さんの声を聞きながら体を起こして振り返ると、すぐ隣で久々知が私に背を向けて丸くなっていた。軽く手を握られた手を顔の前に並べて、深く寝入っているらしい。私が起きた気配に気づいてのか、やや顔をしかめて首を傾けた。
 じっと見ていると、後ろから斉藤さんが覗き込んでいた。
「今、伊勢ちゃん兵助君かわいいなー、とか思ったよね」
「思ってません」
 五十嵐さんの方を見て即答をした時、足に白い包帯が巻かれているのが目に入った。伊作のものに比べたら不格好な巻き方だった。ただ、少しほつれている包帯からは、何度も巻き直したことが窺えた。思わず溜息が出る。
「伊勢ちゃん、兵助君はいつも一生懸命なんだよ。真面目なんだよ。だけどね、ちょっと口下手で……」
 斉藤さんの言葉に、気疲れのせいだろう、ぐっすりと眠っている久々知を見ながら返す。
「知ってるよ」
 鉢屋のような天才ではなくて、一生懸命努力して成績を維持していることは知っていたし、私に気を遣い始めることも薄々気付いていた。火薬委員長代理として、火薬委員を上手く指揮できていないことも、斉藤さんに対してどう接しても良いのか未だに決めかねていることも何となく分かった。
「斉藤さん、私と久々知が何年ここでやってきたと思っているの?」
 五年間。決して美しい五年間ではなかったけれど、私は久々知を見てきた。見ざるを得なかった。同じ学年だ。意図して眼を逸らさない限り、彼の存在をなかったことにしない限り、私は彼を認めざるを得なかった。
「だからさ、久々知もいい加減気付いても良いと思うんだよ」
 私が"こういう人間"であることぐらい。
 心の中でそう続けた。
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