信用できない言葉

委員会対抗戦の段


 久々知が何も喋らないため、おかしいとは思っていたが、久々知が私の前で喋らないのはいつものことなので、何も言わなかった。それが良くなかったらしい。
 ふらっと久々知の膝が崩れた時には驚いた。座り込み、額を押さえながらも笑って、大丈夫、と言う。私は、少し前の五年の合同忍務の時に不破が言った言葉を思い出した。
「三郎の"もう駄目"と兵助の"大丈夫"は信用してはいけないからね」
 全くもってその通りだと思う。とても大丈夫には見えない。私たちは久々知り周りにしゃがみこんだ。
「兵助、きついならちゃんと言えよ」
 大丈夫か、と竹谷が久々知の表情を覗く。不破も心配そうに顔をしていた。
「失礼っと」
 私は久々知が庇っているように見えるわき腹を触った。ほとんど力を入れずに、ゆっくりと触ったのだが、久々知は、小さく悲鳴を上げて恐る恐る涙目で私を見てきた。
「骨痛い?」
 そう尋ねると、頷いてくる。
「多分、皹入っているだけだと思うから、動かさないようにね。肋骨は厄介だよ」
 肋骨が折れたとなると、内蔵が心配だが、どうやら折れてはいないようだった。そうなると、おそらく皹が入っている。皹入ると骨折しやすくなる。
「池田、二郭、斉藤さーん」
 私は前を歩く集団に向かって声を張り上げた。そして、振り返った三人に向かって言う。
「お前らのボスが肋骨に皹入っているんだけど」
 三人は顔を見合わせて、走って来た。久々知が驚いたような顔をして、私を見た。
「久々知先輩、大丈夫ですか? お荷物ぐらいならお持ちします」
 二郭と池田が、久々知の足や腕や懐から、忍具を出す。久々知は大丈夫だから、と繰り返すが二人は久々知を丸腰にしてしまった。
「安心しろ。不破と俺はほとんど怪我をしていないからな」
 敵に襲われても大丈夫、と竹谷が明るく笑った。おそらく、久々知が慌てている理由はそう言う理由ではないのだが、一々訂正してやる気はない。
「じゃあ、僕は久々知君を背負うよ」
 斉藤さんは久々知の前にしゃがみこんだ。
「歩けるから」
 久々知は慌てて申し出を断ろうとした。しょうがないやつだ、どう言えば良いだろう、と考えていると、不破がにっこりと笑って言った。
「肋骨に皹入った兵助を歩かせたら、五年生代表として敬助が善法寺先輩に怒られるよ」
 不破の言葉で、その未来が容易に想像できるのが怖い。怪我をさせた七松先輩も怒られるだろうが、私も怒られるだろう。伊作が本気で起こるとは思えないが、あの人の説教は長い。
 そんなことを考えていると、斉藤さんは人懐っこい笑顔を浮かべて言った。
「遠慮しないでよー。僕歳年長だから」
 間髪入れずに、竹谷と不破で斉藤さんの背に久々知をのせる。久々知は申し訳なさそうに、ありがとうございます、と遠慮気味に笑った。
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