重なる親友

天女様と王様の段


 私の学校には、五十嵐伊勢という女の子がいた。小学校の時からの友達で、我儘で自分勝手に振舞うことが多いけど、優しくて正義感が強い一番の友達だった。私が苗字を呼び捨てにしていたのは、彼女だけで、また、彼女も、私を諏訪と呼んでいた。
「諏訪は鳥好きでしょ。今度、一緒に鳥を見に行こうよ。先輩が、鳥に興味があるって言ってね。無口だけど、優しい先輩だから、鳥のこと教えてあげてよ」
 鳥に興味のなかった五十嵐は、私と友達になってから鳥のことが好きになった。他人の趣味を興味がないなんていう言葉で片付けずに、合わせてくれる。本当は、優しくて広い心を持っていること、知っているんだ。


 私が一人の時に自称神様は現れる。
「あなたは五十嵐伊勢を殺すためにここにやってきたのです。殺さないと殺されます」
 菅井様、と名乗る神様は、そう繰り返した。私は菅井様が嫌いだった。だから、五十嵐に差しのべられた手を取った。しかし、それだけではない。彼女は私の親友にそっくりだった。
 明るくて、素直じゃないけど優しい親友にそっくりだった。最初に見た時は、彼女だと思ってしまったぐらいだ。だから、女の子だって分かった。女装しているとは思えなかった。
「これ、新刊じゃん」
 荷物を纏める時、貰いものの本を手にとって、五十嵐は笑った。中在家先輩に貰ったのなのかと尋ねてくる。私は人の名前と顔を覚えるのが苦手で、誰に頂いたかも覚えていなかったため、曖昧に首を傾けた。
「それに、連綿が読めないから読めないんだ」
 ここの文章は行書と連綿で書かれていて、私には読むことができない。
「今晩音読してあげるよ」
 五十嵐は明るくそう言った。
 五十嵐のニィっと歯を出して笑う子どもっぽい笑い方もそっくりだった。私はここにきてから入りっぱなしだった肩の力が抜けていくのを感じた。


 その日の夜は楽しかった。夜はしっかりと戸を閉めて、五十嵐に新刊の本を少し音読してもらった。妖怪の面白いおかしい話で、二人で笑った。
「音がたくさん聞こえるね」
 布団に入ると、昨日の夜には聞こえなかった音がたくさん聞こえてきた。昨日も同じような音がしていたのだろうが、漸く外の音を聞く余裕ができたのかもしれない。
「コロコロいっているやつは蛙の声だよ」
 五十嵐は、かわいい蛙なんだよ、と続けた。 
「今のは夜鷹かな」
 そう尋ねると、そうだよ、と五十嵐は言った。
 夜鷹の声は知っていた。私は鳥が好きだった。でも、夜鷹の声なんて、テープレコーダーでしか聞いたことがなかった。生の声を聞いたのは初めてだ。
「このかすかに聞こえるほーほーっていうのは、梟?」
「そうそう」
 梟の声なんて、聞けるとは思わなかった。
 鳥が好きなのか、と尋ねる五十嵐に、大好き、と答える。
「最近、大瑠璃と三光鳥が来ているんだよね。見に行く?」
「見に行きたい」
 五十嵐の声が遠い昔のような記憶と重なった。ここに来て初めて、来ることができて良かったと思った。
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