仲間はずれの気持ち

委員会対抗戦の段


 五年の中では、一番遠い存在だった。勉強が苦手で、人懐っこくて、先輩相手にも怯まない。気に入らなかったんだ、五十嵐敬助が。私の持っているものを持っていないで、私の持っていないものを持っていた彼女のことが。
 心の底から馬鹿にしていたわけじゃない。ただ、負けたくなかった。


 火薬委員を連れて五年長屋に行く。私たちの部屋から一番離れたところにある部屋には札が一枚しかかかっていない。
 私はこの部屋に一度も入ったことがなかった。ゆっくりと戸に手をかけようとすると、戸が勢いよく開いた。
「はいはい、みんな中入ってね」
 広々とした部屋には、饅頭が並べてあって、その真ん中には湯気の立った急須がおいてあった。
「お饅頭だ」
 怖いもの知らずの三郎次が真っ先に滑り込むように部屋に入る。
「流石学級委員ですね」
「伊助は食べたことあるやつだと思う。黒木にいつも持たせているから」
 伊助は三郎次に続き、部屋の中に入った。伊助に続いて、私と斉藤さんも部屋に入った。並べられた饅頭の前に座れば、当然のよいにお茶を差し出される。
「お茶が冷めないうちに食べなよ」
 饅頭とお茶の前に座り、期待に目を輝かせている下級生二人に五十嵐は笑いかけた。すると、二人は元気よく、いただきます、と言ってすぐに饅頭を口の中に詰め込んだ。今福は二人が饅頭を口に詰め込んだのを確認してから、小さな声でいただきます、と言って、饅頭を口に含んだ。
「じゃあ、僕たちもいただこうか。いただきまーす」
「いただきます」
 斉藤さんと一緒に私も饅頭を手に取る。
「五十嵐先輩、いろは対抗戦みたいなびっくりな作戦立てるんですか?」
 伊助は目を輝かせて尋ねた。いろは対抗戦で戦力的には最も不利なは組を優勝に導いた作戦立案者だ。そして、同室の先輩。一年は組の伊助は五十嵐を慕っている。それは分かる。
「いや、流石に今回は無理かなあ」
 困ったように五十嵐は笑う。
「そう言わず。冬は甘酒ないと辛いんですよ」
 三郎次がにこにこと笑いながら、五十嵐の袖を引っ張る。二年い組相手に何を言うかと思ったら、五十嵐は困ったように溜息を吐いた。
「みんな覚えおいた方が良いよ。六年は組には魔神が二柱棲んでいる」
 伊助と三郎次と今福を見ながら、五十嵐は徐に咳払いをしてそう言った。
「魔神、ですか? 確かに食満先輩怖かったですよね」
 伊助が笑いだす。医務室では善法寺先輩、そしてそのまま長屋に連れていかれて食満先輩に五十嵐が叱られていたのは噂になっていた。は組の忍たまたちはそれを目撃していたらしい。
「そういうわけで、私はちょっと大人しくしておかないと……二度はない」
 伊助と三郎次は躊躇いなく笑い、斉藤さんも噴き出した。
 分かりきったことだった。明るくて面倒見の良い五十嵐をみんなが慕ってついていくことなんて。実績のある五十嵐を頼ることなんて。
 それを分かっているはずなのに、忘れたはずの嫌な感情がふつふつと湧いてきた。
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