久々知兵助

委員会対抗戦の段


 三年生の時、鉢屋と久々知と三人で組んで実戦をしたことがあった。私がいないことのように久々知が作戦を提案するのは容易に予想がつくことだったため、それ程気にはならなかった。
 ただ、あの言葉だけは今でも覚えている。
「三郎は優秀だけど、二人だけは厳しいな。せめて、あと一人忍たまがいれば……」
 私の方を見向きもせず、久々知はそう言った。腹が立って久々知の胸倉をつかんだが、久々知は表情一つ変えなかった。鉢屋も久々知を咎めたが、彼は当然のように口元に酷薄な笑みを浮かべるだけだった。
 あの後、悔しくて悔しくて仕方がなくて、私は長屋に戻ってから一人で泣いた。惨めだった。


 忍術学園をやめられる時、大木先生は私に言った。
「来年から私はいなくなる。実技はろ組、教科はい組と受けろ」
 実技が強いと言われるろ組と、成績が優秀だと言われているい組。私は不安を隠せなかったのだろう。
「ど根性だ、良いな」
 大木先生は私の顔を見て頭を撫でた。人の話を聞いていないようで、人の表情など何一つ気にしていないようで、先生はそれをしっかりと見ている。
 先生はそう励ましてくれたが、私の心配は正しかった。
 い組との合同授業は大変だった。元々苦手だった教科、それまでは鉢屋と不破に教えてもらってなんとか乗り切っていた。しかし、い組はろ組よりも進むのが早いため、鉢屋や不破にも教えてもらえなくなったのだ。
 そうかといって、い組の二人に聞く気はさらさらない。私は尾浜と久々知の座っている場所から、少し離れた机にいつも座っていた。尾浜と久々知は当然のように授業についていく。
 同じ教室にいても、話すことは滅多になかった。どうせ不快な思いをするなら、話しかけない方がマシだ。四年生になったぐらいからは、色々と言ってくることも少なくなったが、顔を見るだけでも思い出す。嫌な気持ちになる。
 ただ、話さなければいけないときは話す。
 久々知と尾浜だったら、久々知の方がマシだ。久々知も嫌な奴だったが、尾浜のように積極的に私たちに絡んでくることはなかった。あれこれと意地の悪いことを言う尾浜と違い、久々知のやり方は私たちがまるでいないかのように振舞うことだった。腹立たしかったが、尾浜よりはマシだった。
 私は授業が終わった後、久々知の机に近づいた。久々知の方へやってこようとした尾浜を牽制するように睨みつけてから、机を挟んで久々知の前に座る。久々知は目を丸くした。
 少し前まで、久々知は私が何をしようとも表情一つ変えなかった。しかし、最近、久々知は表情を変える。
「久々知、委員会対抗だけど、集まらないの? 時間と場所言ってくれれば今福連れて行くよ。場所ないんだったら、私の部屋でも良い」
 用件だけを早口で言うと、久々知は目を逸らすかのように廊下の方へ目をやった。
「じゃあ、お願いする。夕食後、五十嵐の部屋に火薬の奴ら連れてくから」
 そして、そう答えた。声がやや上擦っていた。私は頷いて、荷物を纏めて足早に教室を出た。
 何があっても表情一つ変えなかった久々知。彼の変化の理由に首を傾げながら、私は昼食をとるために食堂へ向かった。
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