"いつも"に賭ける

いろは対抗戦の段


「気を張るな」
 一つ上の先輩が私に最初に声をかけてきたのは、二年生の時。一人ぼっちになった私は、三年い組と言い争って、負けて、一人で昼食をとっていた。中在家先輩は私の後ろに七松先輩と一緒に並んでいて、一部始終を見ていた。何も言わずに私の隣に座った中在家先輩は小さな声でそれだけ言うと、黙々と自分の昼食をとり始めた。
 協調性がないと言われる先輩だが、よく人を見ている。


 実は作戦の全容を私以外誰も知らない。というのは、六年は組の先輩方に反対されることが分かっていたからだ。伊作は食満先輩一人に六年ろ組の相手をさせることを、食満先輩は私と伊作が単独行動を取って、い組と単独行動のろ組の相手をすることを嫌がるだろう。
 あの二人は、自分たちが無事でいることが、下級生にとって重要なことを心の底から理解している。下級生のためにも無茶はしてはいけないよ、と伊作に言われ、その後、無茶はしないと食満先輩に約束させられた。
 結局あまり守らなかったわけだが、そもそもこの作戦自体が"賭け"だったため仕方がなかった。ただ、私はこの賭けに勝てると信じていた。
「は組とろ組が最初に刃を交えることになるのは読めていたんだ。そして、は組ろ組が戦っていたら、い組もそれに気付いて漁夫の利を狙おうと、近くに控える」
 ろ組とも、は組とも戦いたくないい組と、何も考えていないであろうろ組。い組がろ組を避ければ、ろ組とは組が最初に戦うことになるのは分かっていた。
「大混乱の中、伊作と私でい組と単独行動をしているだろう鉢屋、その他の単独行動者を片付ける間、残ったほとんど下級生だらけのは組のみんなには、ろ組に耐えて貰いたかった」
 鉢屋が単独行動をするのは分かっていた。鉢屋は誰かになり代わろうとすることは容易に予想できた。他にも、ある程度の上級生を持つい組などは、単独行動者を出してもおかしくないと思った。
「でも、戦力的には不可能なんだよ。だって、四年以上が食満先輩と斉藤さんだけだからね。だけど、私たちは耐えることができた」
 圧倒的な上級生不足。それを補うのは、優秀と評される五年生の不破相手にも、物怖じせずにかかっていく一年生は大きな力だった。ただ、それだけでは足りない。足りないが、私は耐えることができると踏んだ。
「中在家先輩が、手加減をしていたからね」
「途中から不破も手加減していたね」
 伊作が私の言葉に続けた。伊作はい組の相手だけで疲れ果てていたようで、不破と戦う時にはほとんど力が出せていなかった。本来なら不破に抑え込まれるはずだったが、伊作はそうならなかった。
「何故ですか?」
 そう尋ねたのはきり丸だ。私はきり丸の頭に手をのせた。
「こうなることを知っていたからだよ」
 きり丸の持っている食堂タダ券に目をやった。
「は組が勝ったのはきり丸がいつも頑張っているからだよ。中在家先輩も不破も、いつも頑張っているきり丸を見ているからね」
 人の善意につけ込むことは忍者ではよくすることだ。それを一年生の前でやるのは少々気が引けたが、中在家先輩がそれを全て分かっていてものってくれるだろうことに賭けた。
「じゃあ、きりちゃんの普段の行いでは組は勝ったってことですよね」
 乱太郎の言葉に頷くと、きりちゃんすごいね、と一年は組のみんなはきり丸のところに集まっていった。照れながらも少し申し訳なさそうな顔をするきり丸と、笑顔のは組が微笑ましくて、食満先輩と伊作の顔を見合せて笑った。
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