本気の真実

いろは対抗戦の段


 中在家先輩と対峙する。防戦一方だった食満先輩に手加減していたぐらいだから、この人は怪我一つしていない。
「五十嵐、お前は戦える状態ではないはずだ」
 それには答えない。私も利き腕ではないとはいえ、左肩を強く縛られているため、片手しか使えない。しかも、相手は六年生。それも、実力が高いと言われる六年ろ組の中在家長次先輩。勝負にならないのは分かっていた。
 ただ、私は引く気はない。七松先輩の相手をしている食満先輩も息を切らしている。伊作も疲労が溜まっているようで、不破を片付けられるとは思えない。
「何故、ここまでやる?」
 ゆっくりと投げられる縄縹を私は苦無で弾いた。
「中在家先輩がそれに気付いてくれたから、私たちは巻物を二つ手に入れることができたんですよ」
 この人は一番に気付くと思っていた。は組が本気の理由。他の忍たまたちが気付かなくても、この人だけは気付くはずだと。そして、この人は気付いた。
 だからも、こうして手加減をする。
 深く溜息を吐く中在家先輩を見て、私はにやりと笑った。そして、再び縄縹を弾く。
「一年は全員行ったな」
 息も絶え絶えに食満先輩が絞り出すように言った。
「鉢屋も動き出す頃ですが、一年は組なら大丈夫ですよ。それに、森の中に時友も置いてきました」
 同じく満身創痍の伊作に目をやり、私は苦無を持って中在家先輩と向き合う。
「一年は組がみんなで卒業するなんて当然です」
 黒木の言葉が蘇える。昨晩、黒木ははっきりとそう言いきった。
「大丈夫だよ」
 自分に言い聞かせるように呟く。黒木のように、私もみんなを信じよう。二度と仲間を失うような真似はしない。二度と同じ間違いは起こさない。一年生を見習うなんて、馬鹿な話だが、彼らにはそれだけの力がある。
 私はは組の参謀として、一年生を信じよう。そう思って苦無を動かした時だった。
 火縄銃の銃声が響き、狼煙が上がった。体がすーっと軽くなるのを感じた。
「勝った」
 食満先輩の言葉に、攻撃の手がやんだ。
「ほらね」
 私は、伊作と食満先輩と顔を見合わせた。にーっと歯を出して笑いあい、狼煙に向かって走り出す。
「先輩、やりましたね」
 浦風と、三反田を連れ、五人で満身創痍の中、森を走り抜ける。辿りついた先には、笑顔の一年は組の良い子たちと、時友と斉藤さんがいた。
「先輩、やりました。勝ちました」
 無邪気な笑顔を浮かべて走ってくるは組のみんなを抱きしめる。
「途中で、鉢屋先輩とか、神崎先輩とか次屋先輩に出くわして、それで大変だったんですよ。斉藤先輩なんかは、ずっと竹谷先輩追いかけてましたけど」
「よくやったな」
 興奮で息を切らせて喋る山村の頭を食満先輩が撫でた。
「時友先輩が、い組の二年生止めてくれたんですよ」
 皆本が一年は組に押されて、後ろの方で突っ立っていた時友の手を引いて、私の前にやって来た。
「時友、よくやったね」
 時友を引きよせると、時友はぽかんとした顔に笑みを広げた。そういえば、時友が笑ったところは見たことがなかったような気がする。
「乱太郎、しんべヱ、きり丸」
 そうこうしているうちに、学園長から商品である食堂タダ券を受け取った食満先輩が、三人を呼んだ。乱太郎に一枚、しんべヱに一枚、そして残りを全部きり丸に渡す。戸惑うきり丸に、乱太郎としんべヱが顔を見合わせ、どうぞ、ときり丸に食堂タダ券を渡した。
 対抗編の前夜、私と伊作は個々の部屋を回った。その際に言ったのだ。私たちが本気で勝ちにかかる理由。一年は組の良い子たちは勿論のこと、四年の斉藤、三年の浦風と三反田、二年の時友までもが賛成した。ただ、きり丸と同室のしんべヱと乱太郎には伝えていなかった。
 伝える必要などなかったが。
「俺も、今までどうにかなっていたから、こんなにたくさんのタダ券……アルバイトすれば何とかなりますから」
 きり丸は慌てては組のみんなを見渡す。
「この分の食費は、乱太郎としんべヱとお団子食べに行くのにでも使えば良い」
 少しでもきり丸がたくさん遊べるようになれば良いと思う。ずっと頑張って、ずっと苦労してきた彼なんだから、このくらいは良い思いをしなきゃいけない。
「だって、今回の作戦の要はきり丸だったからね」
 そう言うと、案の定きり丸は首を傾げた。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -