女装少年と王様

天女様と王様の段


 五十嵐が食堂に姿を現さず、部屋に籠るようになった。どうやら、食事は部屋で取っているらしい。また、それと同時に諏訪司も姿を見せなくなった。
「五十嵐、どういうこと?」
 教科が終わった後、忍たまの友を抱えた五十嵐に尋ねると、五十嵐は乾いた笑みを浮かべた。
「今、諏訪と同室なんだよ」
 そう言って、鼻で笑う。その態度は腹立たしかったが、今はそんなことを言っている場合ではない。五十嵐までもが他の忍たまやくのたまのように毒されているのか。
 どちらにしろ、五十嵐の身が危険だ。
「どういうつもりだ? あの不審者をまさか住まわせたのか?」
 詰め寄ると、五十嵐は人の悪い笑みを浮かべた。
「そうだよ。悪い? 別にあんたには関係ないだろう」
「アホのは組が」
 思わず、吐き捨てるように言ってしまう。
 お人好しで、馬鹿で、アホなは組。そのくせ楽しそうにしていて、腹立たしかった。無茶ばかりして、人に迷惑たくさんかけて、忍者らしさなんて欠片もない。
 人に迷惑かけていることも、心配されていることも気付かない、そんな馬鹿なところが大嫌いだった。
「アホで結構」
 だからこそ、その冷ややかな言い方が気にくわなかった。
 人の心配も受け取ることができない奴が、仲間思いだなんて認められない。
「そうやって、アホなことばっかりやっているから、一人になるんだよ」
 五十嵐の表情が変わった。しまった、と思った時にはもう遅かった。
「だからい組は嫌いなんだよ」
 一瞬のうちに細くしなやかな腕が動いたかと思うと、細い指が俺の喉元を掴んだ。五十嵐の声は酷く低く、深かった。目は大きく見開かれ、まるで虹彩が薄くなったかのように黒い瞳孔が浮かび上がって来た。あまりの速さと、表情の昏さに俺は抵抗一つできなかった。
「じゃあ、あんたはどうしたいの? その"不審者"を優秀な忍たまは責任持って排除したいの? 諏訪を殺したいなら殺せば良いさ。私が全力で諏訪を守るけどね。次こそは、絶対に……」
 首を締める指の力が強くなる。その力を少しでも弱めようと腕を強く掴むが、力が入らない。
「あんたは何回私の仲間を否定したら気が済むわけ?」
 陰の差したような目は俺を離すことはない。
「否定……なんか……していない……」
 声を無理矢理絞り出すと、乱暴に手を離された。解放されると同時に、床にたたき避けられる。
「今すぐ失せろ。不快だ」
 机が倒れる音がした。大きな音を立てて戸が閉められ、俺は一人赤い夕陽の差し込む部屋に取り残された。
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