戦場の兄妹

短編


 学園長に頼まれて、兄と二人でお使いに行った。その帰りに、兄が不運なのを忘れて近道をしたためか、私たちは戦場に辿りついてしまった。
 今し方まで戦をやっていたようで、酷い呻き声が響いていた。兄は呻き声の方へ走っていった。途中でぐちゃりぐちゃりと兄貴の足は死体に沈み、足は真っ赤になっていた。
 兄は包帯と薬草を取り出して、生存者の手当てを始めた。重傷者に声をかけ、必死に手当をする兄のために、私は知っている限りの薬草を摘んできた。呻き声と断末魔の叫び声しか聞こえない地獄。
 私は、臓器が出てしまって助からない人間も始末して回った。苦しむ人間の首を忍び刀で斬りおとし、絶命させていく私を振り返りもせず、兄は一人、戦場の真ん中で人の命と向き合っていた。
 日が暮れた時には、戦場は静かになっていた。兄は、血と肉でぐちゃぐちゃの戦場の真ん中で座っていた。鮮血のような夕焼けの中で、兄の後ろ姿は黒い影になっていた。
 私は死体を避けるようにして歩いて、兄に近づいた。
「兄貴、帰るよ」
 鮮やかな鮮血のような空を見上げているところを後ろから抱き締める。首元に巻き付けた腕に、ボロボロと冷たいものがしみるのを感じた。
「兄ちゃんはよくやったよ」
 暖かい背中は随分と大きくなったけど、私とそんなに変わらない。これだけ赤黒く染まってしまったら、緑も青紫も変わらない。
「ねぇ」
 帰ろうよ。
 ようやく立ち上がった兄の顔を見ないようにしながら、私はそっと寄り添った。ぐちゃくぢゃの地面に、黒い影が薄らと映る。
「帰ろうか、伊勢」
 兄は私が生きていることを確かめるように、私を抱き寄せた。
「ごめんね」
 たくさんの人を斬らせて。
 兄の言葉は声にならなかった。
「兄ちゃんはよくやったよ」
 兄は何人もの命を奪った私を、私は何人もの人間を看取った兄を、強く抱きしめた。
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