は組の学級委員

いろは対抗戦の段


 一人が寂しいなんて思ったことはない。私は一人になったことはないから。ただ、言い返せないのが悔しくて、惨めだった。私は幸せで、は組のみんながいなくなった後も、大木先生がいて、鉢屋や不破や竹谷がいて、食満先輩がいた。中在家先輩もよく愚痴を聞いてくれたし、七松先輩は鍛錬をする私の頭を撫でて、体育委員会に誘ってくれた。
 楽しそうに自慢話をする平も、無邪気に毒虫について語る伊賀崎もいた。"い組嫌いな先輩"というキャラを無視して押入ってきた。
 不快じゃなかった。私は一人じゃない。ただ、悔しかっただけだ。負けたくなかった。今はは組を去ってしまった仲間たちを、いつも微笑むだけで否定をしない兄を、否定し続けられ、それに言い返せないのが悔しかった。
「先輩はいつから一人なんですか」
「私には仲間がいるよ」
 深刻そうに尋ねてくる黒木に、軽くそう答えた。
「一人になったことなんて一度もない」
 私は一人になったことはない。五年は組は一人になってしまった。寂しかったけど、今思えば、大したことはなかったかもしれない。頼る人もいた。
 ただ、結託して立ち向かってくれる同じ組の仲間、つまり味方がいなかっただけ。
「はぐらかさないでください」
 真剣に言ってくる黒木に、漏れそうになる笑みを抑えながら尋ねた。
「君は自分が一人になると思っているのかな?」
 私のように、学級委員を残して誰もいなくなる。そうなると思っているのか。
「大丈夫だよ。君たちなら全員卒業できる。そんな気がする」
 一年は組の誰かが欠けるなんて想像がつかなかった。
「君たちが"学園史上初めて"になればいい」
 学園始まって、誰も脱落せずに卒業できた組はない。ただ、一年は組ならば誰も欠けずに卒業できる。そんな気がした。
 しかし、黒木は溜息を吐いた。そひして、私の方を真っ直ぐ見て、はっきりと言った。
「一年は組がみんなで卒業するなんて当然です」
 私が一年生の時、ここまではっきりと言いきれただろうか。脱落者の多いは組で、ここまで仲間を信じることができただろうか。
「そうやって、いつもあなたははぐらかす」
 頼もしい後輩は、私が持っていなかった大切なものを持っている後輩は、それでもやはり子どもっぽくて可愛らしい。
「私は一年に心配されるほど駄目な先輩じゃないよ」
 けらけらと笑うと、黒木は不満そうに口を開こうとした。
「可愛い後輩がいて私は幸せだよ」
 それよりも先に寝転がり、ぎゅーっと抱きしめた。
「あなたは……」
「黒木が怒った。ごめん、黒木」
「怒っていません」
 軽く殺意のこもったような声。それに軽く謝ると、黒木にしては荒い声で言い返された。怒ってるじゃん。
「じゃあ、二年生では組一人になっちゃった可哀想な先輩に添い寝をしてくれるかな?」
「今この瞬間、可哀想じゃなくなりました」
 片腕でしっかりと黒木を固定し、空いた手で頭を撫でると、黒木は冷たく言い返してきた。
「酷い……」
「先輩、薬草の香りがします。怪我でもしたんですか?」
 挙句の果てに無視。
「心に大きなけがを負ったよ、黒木。君のつれない反応で」
「鉢屋先輩に言いますよ。五十嵐先輩が変態ですって」
「鉢屋も変態だから大丈夫」
 同室の顔借りて生活している時点で変態だ。大体、彼は私の行動を制限することはできない。本人曰く諦めているらしい。
「学級委員辞めたい」
「そう言わずそう言わず……」
 黒木の頭を撫でまわしながら、寝る体制を整える。
「というか、先輩寝ちゃっていいんですか?」
「今、善法寺先輩が起きたから大丈夫。そろそろ交代」
 先程からごそごそと物音がしていた。そもそも、交代で見張りはつけているが、夜間に他の組が襲ってくるとは思えない。どの組の上級生も、夜は下級生を確りと休ませているはずだ。
「おやすみ、黒木」
 素直にお休みなんて言ってこない可愛い後輩のことを考えると、口元に自然と笑みが広がった。
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