女装少年と五年生

いろは対抗戦の段


「私は五十嵐伊勢だよ。よろしく、鉢屋君」
 一年は組のそいつは、まるで女のように簪をさして、女の名前で自己紹介をしてきた。雷蔵の顔を借りていた私は既に変人扱いされていて、なかなか友達ができなかった。興味本位に話しかけてくる奴はいたが、よろしくなんて言ってくる奴なんて一人もいなかった。
「雷蔵の友達じゃないのか?」
 雷蔵に言われてきたのか、と私は思った。しかし、私の予想は大きく裏切られた。
「雷蔵君ってろ組の子? まだ名前全員覚えていないんだよね」
 ごめんねー、と敬助は笑っていた。嘘だと思ったが、嘘を吐いているような顔には見えなかった。敬助が小賢しく、本人曰くたくましくなっていったのは一人ぼっちになってからで、その当時は嘘を吐かない素直なは組らしい子どもだった。今となっては思い出すことすら難しくなってきたが。
 八左ヱ門も兵助も勘右衛門も、みんな雷蔵の友達だった。雷蔵が私に紹介してくれてできた友達だ。雷蔵よりも先に友達になったのは敬助だけだった。


 作戦なんて立てられるはずがない。
「作戦全然立てられなかったな」
「無理でしょ。だって、大将は七松先輩だよ」
 昨日はまず三年生の迷子組を探すことから始まった。それからも大変で、大将だけは決まったものの、他はどうしようもなかった。
「でも、純粋な戦力だけで言えば、うちが断トツだ」
 六年の中在家先輩と七松先輩は武闘派で、五年は三人もいる。四年は遠距離武器に長けた三木ヱ門がいて、左門、三之助、作兵衛は三人とも優秀だ。一年も素直で良い子が多い。
「そして、断トツ劣るのがは組だよな。ただ、は組は当たりたくないなぁ。い組も思っているだろうけど」
 八左ヱ門がそう言った時、は組の方から食満先輩の声が聞こえてきた。
「優勝するぞ」
「おーっ」
 とりあえず、楽しそうだ。円になって肩を組み合って顔いっぱいに笑顔を浮かべている。
 忍ぶ気ないだろ、お前ら。
 そう思わずにはいられないが、何故か不快には思わない。馬鹿だけど憎めない奴なのだ。五十嵐敬助もまさにそれだ。
「敬助、楽しそうだな」
 雷蔵が笑った。敬助は庄左ヱ門と伊助の近くに立っていて、楽しそうに笑っていた。善法寺先輩から貰った髪飾りは今日はつけていないらしい。簪も何もつけていないせいか、本気を表現しているのか、いつもよりもやや男っぽい感じがした。
「まるで遠足だね」
 雷蔵の言葉に頷く。敬助は食満先輩や善法寺先輩と話しながら楽しそうに歩いていた。善法寺先輩と和解してからは、敬助は六年は組の長屋に入り浸っているようだ。食事も私たち五年と一緒に食べずに、先輩方と一緒に食べている。
 何故か、それが妙に突っかかっていた。
「ねぇ、三郎。七松先輩呼んでいるよ」
 雷蔵にそう言われて我に返る。
「なぁ、雷蔵」
 先輩のあとを追いながら、雷蔵に話しかける。
「私は勘右衛門と兵助を責めた」
 敬助が女だと分かってから、俺は勘右衛門と兵助にある事実を話した。五十嵐敬助が今の五十嵐敬助になった理由。
「誰も悪くないんだよな」
 本当は誰も悪くない。勘右衛門と兵助は運が悪かった。敬助も運が悪かった。ただ、それだけなのだ。ただ、私は腹立たしかった。
 五十嵐敬助は六年は組じゃない。五年生だ。
「私は五年生に悪い人がいるなんて思ったことはないよ。敬助だって、知っているよ」
 その時はまだ、雷蔵の言葉が信じられなかった。
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