女装少年と天女様
天女様と王様の段
天女様を一言で言い表す言葉は"おとなしい"だ。食堂で忍術学園の人々に囲まれながら食事をしている。それを見てあることに気付く。
忍たまもくのたまも先生方もみんな笑っているのに、肝心の天女様だけがぎこちない笑顔だ。
「どうした、五十嵐」
私が難しい顔をしていたからだろうか、尾浜が期待した顔で尋ねてきた。
「早く何とかしたいなぁってさ」
私が見ているのは不審者でもなんでもない。ぎこちない笑顔を浮かべる顔色悪い女の子だ。彼女は何故、笑わないのだろうか。
学園に目的あって忍び込んだとは思えなかった。それにしてはあまりにも拙い。
「漸く……」
尾浜が期待に目を輝かせたのが腹立たしかった。
「あの子もさあ、嫌なら嫌って言えば良いのに。早く何とかしてあげないとね」
そのため、わざと期待を裏切るように言った。
「五十嵐、お前さぁ……」
「でも、私も困ってるからねぇ。何が楽しくてい組なんかと顔つき合わせて食事しないといけないわけ? おばちゃんの料理の味も半減だよ。あーあ」
私に執拗に天女様排除を申し出る尾浜が腹立たしくて仕方がなかった。私のことを散々馬鹿にしてきたのに関わらず、こういう時だけは頼ってくるところも癪にさわった。
「とりあえず、尾浜が消えれば万事解決ということか……」
忍び刀を引き抜いて尾浜に突きつける。
「待て待て待て待て待て……」
尾浜が慌てて椅子を引いた。
尾浜の言うことも分かる。ただ、彼女がここにやってきた目的を聞かないのはおかしいし、彼女の言い分を聞かないで一方的に排除するのも嫌だ。見たところ、農家の娘なんかよりもずっと華奢で、戦える体をしているとは思えなかった。
久しぶりにくのたまではない普通の女の子を見たせいだろうか。私は彼女と話をしたかった。