女装少年の髪飾り
女装少年の段
演習の帰路、五十嵐は自分で歩くと言い張ったが、結局食満先輩に負ぶわれることになった。五十嵐が女の子だと知って、僕を含めみんな動揺していたが、食満先輩は全く動揺していないようで、軽く背中乗るか、なんて尋ねていた。
始めは自分で歩きます、と言っていた五十嵐だったが、食満先輩の笑顔に絆されたのか諦めて負ぶわれることになった。乗ってみたら満更でもなかったようで、上機嫌に見えた。食満先輩に話しかけ、にやにやと笑っている。
それと反対に、五十嵐は善法寺先輩とはほとんど何も話していない。
「伊作、伊勢の誕生日って今頃だよな」
五十嵐と話していた食満先輩が、背に乗っている伊勢ではなく、少し離れたところにいた善法寺先輩にわざわざ大声で尋ねた。
食満先輩の突然のふりに、伊作は驚いた顔をしていた。すると、食満先輩がニヤニヤと笑いながら先輩の背に乗っている私に向かって言った。
「あのなぁ、五十嵐。伊作は毎年この時期に高価なものを一つ買ってきては薬棚の一つに……」
留三郎、と伊作の鋭い声が響く。伊作の顔を見ると、慌てて私の顔を確認していた。
「悪い悪い」
食満先輩は全く悪びれていないようで、適当に相槌を打っていた。
「今、持ってるだろ。ここに来る前、町に行った時に簪買ってたじゃねぇか」
食満先輩は伊作の方へ近づいた。
「つけてやれよ。女装実習で使うようなちゃっちいやつじゃなくて、上等なやつだろう。六年も凌ぐ女装少年に与えられるべきものだろ」
伊作は懐から藤色の豪奢な髪飾りを取り出した。簾のように飾りのついた青紫の髪飾りはすぐに買えるようなものではないだろう。
伊作は最初から括ってあった髪に何も言わずに青紫の髪飾りを刺し込んだ。
「似合うじゃないか」
食満先輩が振り返って、にやりと笑った。
「一年目は万能薬、二年目は本、三年目は刀紐、四年目はお守りだったか?」
「何で覚えているんだよ」
一年目は私が忍たまになった年、二年目はは組が一人になってしまった年、三年目は忍者刀使いになった年、四年目は危険な演習が増えた年、伸ばし続けた髪が結えるようになったのが今年だ。
伊作は私のことずっと見ていたのだ。ずっと気にかけてくれていた。
「大切にしてね。高かったんだから」
伊作は昔のようにふわりと笑った。この笑顔が大好きだった。転んだ時、失敗した時に手を差し伸べた時の優しい笑顔が大好きだった。
食満先輩がにやっと笑って私をつついた。ああ、そうだ忘れていた。
「伊作、ありがとう」
ああ、私はこの人たちには敵わないなぁ。
そう思ったのは私だけの秘密。
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