落下、落下、飛散

いろは対抗戦の段


 まさか、敬助が一年生の前で、忍び刀でガンガン斬りつけてくるとは思わなかった。油断していたせいで避けきれなかった最初の一撃による傷口から血が滲む。やられっぱなしは好きじゃない。そっちがその気なら、ということで私も苦無を容赦なく使った。結果……
「先輩方、大丈夫なんスか?」
 敵方の一年生にも心配されてしまった。心配するのも当然。私が最初に貰った傷は浅いのだが長くて、血がだらだらと流れてくる。敬助は私の苦無で傷だらけだ。土には血がべっとりとしみついている。
「大丈夫だよ、きり丸。」
 敬助は血をだらだら流しながら笑った。しっかりと私の方を見据えたまま、背後にきり丸を置き、忍び刀を舐める。
「いやぁ、こうしてみるとなかなかに粋なモンだなぁ、と思って」
 善法寺先輩には悪いが、五十嵐は普通の女みたいにのうのうと生きていくために生まれたとは思えない。六年生の緑と、そこから覗く青紫の五年生の制服に、青紫の桔梗と藤の簪、忍び刀の紐も青紫、ただその刃の色だけが、暗い紅色だった。
「褒められても降参はしないけどね」
 決して美人ではない。ただ、見惚れるだけのものがある。様になっているのだ。
「そりゃ残念だ」
 五十嵐敬助は誰かを守る時に、一番輝くのだろう。ただ戦っている時ではなく、誰かを庇いながら戦っている時だ。
 再び刃を交える。私の苦無を避けきれなかった五十嵐の肩から血が滲む。浅い傷のまま、すぐに身を引くと思っていた。
「敬助……お前」
 敬助の腕から流れ出る生温かい液体が腕に染み込んだ。



 血塗れの腕に呆然としている鉢屋に容赦なくぶつける。鉢屋の顔に、目に、血を叩きつける。目潰しだ。きり丸が悲鳴を上げる。当然だ。血の飛沫が撒き散らされたのだ。
「きり丸、血塗れにしちゃってごめんね」
「先輩、怪我……」
 そう言いながら、きり丸を持ち上げる。流石に重いが仕方がない。そして、藪の中を分け入り、きり丸が次の言葉を発するよりも前に、私はきり丸を投げた。
「福富、パース」
「えっ、しんべヱ?」
 きり丸を投げた先は小さな崖。そこには福富が控えているはずだ。私は痛む腕を押さえつけ、崖を降りた。それと同時に、福富がきり丸を持ちあげた。
「浦風先輩、パスです」
 福富のいる崖の下には田村と一年ろ組と交戦している浦風たちがいるのだ。浦風は顔を上げ、落ちてくるきり丸を見て目を丸くした。
「ちょ、五十嵐先輩。重いもの投げるから受け取って欲しいって……まさかこれのことですか?」
「鍛錬しているから大丈夫だよね」
 ニヤッと笑い、福富と共に崖を飛び降りる。そう、ある一点を目指して。
「ユリコーッ」
 鮮血を撒き散らせながら、田村に蹴りをくらわせ、ユリコと一緒に田村を崖の下に突き落とす。
「悪いね、田村。まぁ、四年だから、死にはしないよね、うん」
 正直、腕が痛くて人の心配している余裕がない。多分、田村なら大丈夫だろう。四年でも平と田村は殺しても死なないような気がする。そういうことにしておく。
「先輩、怪我してるじゃないですか」
 三反田が慌てて包帯を取りだした。流石保健委員だ。
「止血だけして貰えるかなぁ」
 一年ろ組と福富ときり丸、浦風が交戦している中、私は三反田に左腕を圧迫止血をして貰っていた。たまに流れてくる手裏剣は苦無で打ち返す。
「先輩、止血終わりましたけど、じっと……」
 私は立ち上がる。崖の下で戦っているボロボロの食満先輩の背後の藪に、青紫と水色を確認する。
「福富、あの方角へきり丸投げてくれる?」
 私は食満先輩の背後の藪を指さした。分かりました、と元気よく返事をする福富の頭を撫で、三反田の制止を聞なかったことにして、崖をかけ下りる。
「きり丸、投げまーす」
 きり丸を投げた先には……
「乱太郎っ」
「僕も一緒に行くよ」
「三治郎っ」
 夢前と猪名寺がいるのだ。二人と一緒にきり丸が走っていくのと同時に、叢から伊作が飛び出してくる。学園長の下へ、二つの巻物を届ければ私たちの勝ちだ。
「遅ぇ」
「悪いね」
「すみません」
 食満先輩は七松先輩と戦いながら吐き捨てるように言った。ボロボロの体だが、私と伊作を見た時にはにやりと歯を出して笑った。
 伊作は不破と、私は目の前にいる先輩と対峙する。
「中在家先輩、ここから先はお通しできません」
 右手に握った忍び刀から血が滴り落ちている。一年生に巻物二つを託して、私たちはここで戦う。
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