善法寺と食満

女装少年の段


「間に合わなかったか」
 僅かな音すら立てずに、降りてきたのは食満先輩だった。おそらく、善法寺伊作一人ならば私にやられる可能性があると言うことで、私を探していたのだろう。五年一人に六年二人を割くなんてどういう作戦なのだろう。それだけ、潮江先輩と立花先輩は私を潰しておきたいのだろうか。
「食満先輩でしたか……これは困りました」
 そう言ったものの、七松先輩よりはマシだと思った。食満先輩は日本語が通じる。たとえ、好戦的な性格だとしても。
 何よりも先輩は私の体術の師同然だ。
 ただ、できる限り容赦なく殺れ……じゃなくやり合える潮江先輩や立花先輩の方がよかった。この二人には恨みがある。この二人は気にくわない。正当にこの二人を殺れるのはここしかない。ああ、あいつらを謝らせてやりたい。
「眠り薬でも仕掛けていたのか……随分と手が込んでいるじゃねぇか」
 食満先輩は呆れ顔で穴の中を見えると、そう言った。
「相手は六年生ですから」
 仲間に助けられた先輩と、再び刃を交える余裕などない。徹底的に潰しておかなくてはいけない。
「それだけではないだろう」
「どこまで知っているのですか? 食満先輩」
 まさか喋りやがったか、と思ったが、戦意ギラギラやる気満々の食満先輩を前に、大したことではないだろう、と思った。
「俺に勝ったら教えてやろう」
 食満先輩は鉄双節棍を振り回した。遠心力のついた棍をまともに止められるとは思えなかった。私は後ろに飛ぶと、手裏剣を投げた。
 勝ちたい。しかし、勝てるとは思えなかった。とりあえず、鉢屋たちがくるまで耐えなくてはいけない。
「お前、勝つ気はないな」
 食満先輩から逃げ回る私に、先輩はそう言った。
「勝つ気はないですが、怪我をする気もありません。私と戦っていても楽しくないでしょう」
 私は勝つことよりも怪我をしないことの方が重要だ。できれば、食満先輩には他の五年にあたって欲しい。
「お前を潰すか、双忍と化かし合いかの二択だからな。別に構わない」
 先輩の言葉に、そういえばバリバリの戦闘系は五年にはいなかったな、と思い出す。不破と鉢屋などその典型だ。
 そんなことを考えていた時、ふと周囲からたくさんの気配が現れた。食満先輩が攻撃の手を止め、周囲を見渡す。当然のように姿は見えないが、誰かがいる。
「何者だ?」
「さぁ、何者でしょう」
 それは五年生でも六年生でも先生方でもない気配だった。
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