第一夜

六夜の戦の段


 山本先生からの呼び出しは、やはり一人ずつだった。俺は、手取り足取りしっかりと教え込むように言われた。一番目だから当然だろう。俺はそう思った。
 指示された時間に指示され長屋の一室に向かった。使われていない長屋には、ぼんやりと明かりが灯っていた。
 さっと引き戸を開けると、薄い布団の上に五十嵐がちょこんと座っていた。
「食満先輩、よろしくお願いします」
 飄々と、平然とそう言って頭を下げるが、不安そうな表情を消し切れていないのがおかしかった。伊作の言ったことは強ち間違っていないらしい。
「それで、私、やり方全く分からないんですけど、どうすれば良いですか」
 五十嵐は首を傾げ、ころんと布団に横になった。その時にちょうど浴衣が肌蹴て、足から太ももまでが顕わになった。ちゃんと褌を脱いできているらしい。ここまでしてあれば話は早い。
「とりあえずは、それで構わない」


 体の動かし方は全く分かっていないらしく、指示されなければ動かない。ただ、指示されればすぐに動き、覚えた動きは上手く使える。ただ、緊張しているのか体は強張っていた。
 全てが終わった後は頭がぼーっとしていたのか、何故か浴衣を着直すのに俺の二倍ぐらいかかっていた。帯を結ぶのを手伝ってやると、ありがとうございます、と笑顔を浮かべた。笑顔を浮かべる余裕はあるようだが、部屋まで自力では辿りつけそうになかった。
 腰の力が抜けているのか、立ち上がろうとしてもなかなか立ち上がることができず、誤魔化すかのようににやっと笑った。肩を貸してやると、申し訳ございません、と困ったような申し訳なさそうな顔をした。
 その顔が伊作にそっくりで思わず笑ってしまった。
 五十嵐の部屋はまだ布団が敷いていなかった。珍しく用意が良くなかった理由を尋ねようと思ったが五十嵐がばつが悪そうな顔をしたので、尋ねることはやめた。緊張して後のことを考えるのをすっかりと忘れていたのだろう。
 部屋まで自力で戻ることもできないのに関わらず、布団を敷くなど無理な話だ。俺は押入れを開けて敷布団を敷いた。横になるように言うと、ありがとうございます、と笑った。
 人の厚意を素直に受け取るところは伊作と同じだ。
 横になった体に布団をかけてやると、気恥かしそうに笑った。頭を撫でて、よく頑張ったな、と言ってやると嬉しそうな顔をした。五十嵐はすぐに目を閉じて、ゆっくりと寝がえりをうった。
 五十嵐が寝入るまで、それ程時間はかからなかった。俺は五十嵐が寝息を立て始めたのを確認すると、部屋を出た。
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