彼と不運委員長

女装少年の段


 五年六年の合同演習。五年対六年の戦いだ。私は潮江先輩と立花先輩を探そうと思ったが、二人が私を避けることは分かっていた。避けられている中で狙うことは難しい。
 逆に私を狙うと考えられるのは何人かいたが、確定できるのは一人だった。その確定できる「先輩」対策をするのが当然。
 私は一緒に森に入った不破と鉢屋を見送った。二人と一緒に行こうと思ったが、確実にその一人を潰す方が得策だ。優秀だと言われる五年を狙わず、落ちこぼれの私を狙うような「落ちこぼれ」だとしても、六年生であることには変わりない。潰しておいて損することはない。
 私は用意を整えると、少し開けた場所でその「先輩」がやってくるのを待った。
 間もなく気配がした。誰が近づいてきているのかはすぐに分かった。
「善法寺先輩」
 六年生で一番不出来な六年は組、不運委員長善法寺伊作。六年生の中では一番マシだ。もし、私が鉢屋や不破だったら、こう思うだろう。
 飛んできた手裏剣をクナイで払い、暗緑の木々を見上げ、煙玉を投げ込んだ。降りてくる、とそう踏んで。
「伊勢、久しぶり」
 大きな釣り目に柔らかい色の髪。クセのある武器ではなく、何の変哲もない苦無を握る大きな手。全てが想定内だ。決して焦る必要はない、と自分に言い聞かせる。
「ええ、久しぶりですね」
 私の言葉に不快そうに口元が歪める。私の苦無を握る手が揺れる。ここで、全てを失ってしまっては私の努力は終わりになる。しかし、同時にこれはチャンスなのだ。
 私は何としても目の前の「善法寺伊作先輩」を倒さなくてはいけない。苦無をぶつける。六年最下位の成績とはいえ、一年の差は大きい。スピードも力もテクニックも違う。激しい苦無の動きを止めながら、私は一歩一歩下がっていく。
 斬撃を止めながら、私はふと隣を見た。黒い樫の大木が斜め後ろに見えた。
今だ。
 私は苦無を押し返し、背後に向かって飛んだ。距離をとって、苦無を持ち替える……振りをした。
 私との距離を詰めようと走って来た緑色は、いきなり消えた。そう、落とし穴の中に。
「伊勢」
 一人では登って来れないように穴を掘った。深い穴に落ちて行く時、驚いたような辛そうな顔が目に入った。私は穴を覗き込んだことを後悔した。
「申し訳ございませんが、少しそこにいてもらえませんか」
 穴の中には眠り薬を染み込ませた藁を敷いた。衝撃の反動で眠り薬が穴の中に充満するだろう。
「たとえ、片方が善法寺伊作先輩だったとしても、六年生二人を相手にするなんて、勝算の欠片もないことはする気もありませんので」
 苦無を握り直し、再び新緑を見やった。

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