反〜善法寺兄妹〜

いろは対抗戦の段


 い組を探して走っていると、向こうから話し声が聞こえてきた。人数は二人だ。足音を立てながら、走っていることからして、一人は一年生だろう。い組の兵助辺りになり代わろうとしていたが、誰と一緒にいるか分からない兵助よりも、二人だけで走っている忍たまになり代わった方が楽だ。
 そう思って木の上に登って息を潜めて待ち伏せしていると、緑色と水色が見えた。緑色が足を止めて、私のいる木を見上げた。私が縹刀を投げると、一年を守るように立ち、それを苦無で打ち返した。かなりギリギリのところだったが、私の投げた縹刀は全て地面に刺さった。
 流石六年生、といったところか。私は観念して木から降りた。
「不破先輩じゃなくて……」
「鉢屋か」
 きり丸と、隣にいるのは黒い癖毛を束ねた六年生。
「善法寺先輩……じゃないですね」
 黒い癖毛を束ねた六年生は一人しかいない。六年は組善法寺伊作先輩。
 しかし、善法寺先輩ではない。しかし、一瞬でも善法寺先輩だと思ってしまったことが酷く腹立たしかった。案の定、善法寺先輩の変装をしていた忍たまは、先輩が決して見せないような笑い方をした。
 口角だけを上げる笑い方をしながら、きり丸を庇うように立っている。
「何で分かった?」
「善法寺先輩はそんな女みたいな手をしていないからな」
 手には性差が出る。優しく、体格が良いとは言い難い善法寺先輩もなめらかな手はしていない。高学年で指が一番細く、なめらかな手を持っているのは五十嵐敬助だ。
「流石だね、鉢屋。できれば直接対決は避けたかったなぁ。というか善法寺先輩と当たって欲しかった」
 善法寺先輩よりはやや高い声。きり丸の、五十嵐先輩、という言葉に頷いた。
「俺もそっちの方が良かったなぁ」
 敬助は強くはないが弱くもない。成績は悪いが、弱くはないのだ。しかし、善法寺先輩は六年の中で一番弱いはずだ。おまけに不運だ。
「あのさぁ、ウチが六年生は六年生に当たるように組んでいた理由分かる?」
 五十嵐は結い上げた髪に青紫色の髪飾りをくくりつけた。おおよそ忍者には似合わぬ豪華な髪飾りだ。
「本気の六年なめんなよ」
 五十嵐は扇を入れるような巾着から、忍び刀を出し、鞘から引き抜いた。
「うちの兄貴もなかなかえげつないからね」
 霞扇のことを言っているのだろうか。しかし、忍たまたちを傷つけることを嫌うような先輩が、えげつないことをするとは思えなかった。霞扇もそれ程強い薬を使うことはないはずだ。
 食堂一週間タダ券だけのために、成績にも反映されず、下級生たちも参加するこの戦いで、先輩がえげつない手を使うとは思えなかった。
「戦うんすか?」
 きり丸が慌てて敬助に尋ねた。
「大丈夫、きり丸」
 敬助は忍び刀を持っていない左手できり丸の頭を撫でた。
「君にはまだ大切な仕事があるからね」
 敬助はきり丸を安心させるように笑顔を浮かべた。
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