六年は組の妹

委員会対抗戦の段


 今回はいろは対抗戦とは違う。一緒に過ごす時間の長い者たちだけで組まれている。だから、夜動く委員会があってもおかしくない。特に、徹夜で活動することの多い会計委員会は、確実に夜間に動くだろう。
 狙われるのは勿論、低年齢の者が多い火薬委員会と生物委員会だ。
 私たちは、五年生が少なくとも一人は起きているように決めた。最初は竹谷、真ん中で私、最後に久々知だ。三人で交代して見張りをする。
 竹谷にゆすり起こされ、私は起き上がった。私の寝ていた場所に竹谷が寝る。私は伸びをすると、周囲を見渡した。
 夜空には月はなかった。ただ、見事な星空だった。木々の合間から見える光を見つめながら、私は木に登った。
 枝ではなく、大きな幹が揺れる微かな音がした。私は忍び刀を抜いて、その音の方へと向かった。



 静かな森の中、田村に下級生を任せ、俺は一人で行動していた。田村の指導力をつける良い機会でもあり、この広い夜の森では人数が多くても仕方がない。
 かさり、と幹が揺れる音がした。それと同時に手裏剣が飛んでくる。俺は苦無でそれを弾いた。その容赦のない投げ方から、俺が誰があるかは見破られているらしい。田村では避けられない早さだ。
 つまり、相手は六年かもしくは五年だ。木の影に隠れて手裏剣を投げ返す。弾かれるのは想定内だった。相手が誰か分からない以上、出せる力は限られてくる。
 聞こえたのは、苦無で弾かれた音ではなかった。
 刀、忍び刀で弾いた音。
「五十嵐だな」
 五六年生で忍び刀を多用する忍たまは一人しかいない。厄介なやつに見つかってしまった、と思っていると、青紫の髪飾りを付けた忍たまがひょっこりと顔を出した。
「幸せですよ。潮江先輩とやり合えるなんて」
 にやりと口元を歪めて、忍び刀を容赦なく振りかざす。俺は袋槍でそれを止めた。
「俺は御免被りたいところだ。てめぇの目が気にいらねぇ。は組のヘタレ共そのままだ。それで五年になれたのが不思議だ」
 形は伊作にそっくりだが、輝き方は留三郎のものだ。伊作の中に留三郎が入ったらこうなるのかもしれない。とにかく、気に入らない。
 食満の正義感の強さと伊作の甘さが混じっている。両方とも俺が最も嫌うものだ。忍者に正義感も甘さもいらない。
「私も先輩が嫌いです。そうやって、人を蔑んで、あなた何様ですか?」
 そのくせ、取るに足りないものだと思わせない何かがあるのが酷く気に入らなかった。ギラギラと光る眼は女には到底見えないぐらい好戦的で、性別も出生も隠し続けてきた力は本物だ。
「兄が貶されるのがそんなに嫌か?」
 素早い刀の動きは何よりも明快な答えだった。勢いに任せたためか隙ができた。俺は素早く袋槍で忍び刀を止めると、足を蹴った。
「バカタレ、基本がなっとらん」
 よろけた五十嵐は悔しそうに唇を噛みしめる。体勢を立て直すのも遅い。
「食満もその程度か。それに、そうやって感情に振り回されていては……」
 そう言いかけた時だった。
「あなたには言われたくない」
 見開かれた黒い目を見た時、俺は脊髄反射的に袋槍を動かした。その一瞬、俺はここが学内であることも、目の前にいるのが気に入らないとはいえ後輩であることも忘れていた。
 学外実習の生きるか死ぬかの張りつめた空気が確かにあった。まずいと思った時にはもう遅かった。
 しかし、袋槍の刃が五十嵐の首元に当たるか当たらないところで、袋槍が止まった。袋槍の柄には鉤縄が巻きついていた。
「潮江先輩、敬助を殺す気ですか?」
 背後の木の上から降りてきたのは、不破の顔をした鉢屋三郎。
「鉢屋」
 袋槍を立てて、振り返る。
「私は対抗戦には関与はしない方向ですが、流石に死人が出るのはいただけませんからね」
 鉢屋の目は酷く冷たかった。縹刀を数枚指に挟み、首を傾けて歩いてくる。
「田村たちが図書委員会に遭遇しているようですよ。そちらに戻った方が宜しいのでは?」
 俺は五十嵐を見た。眼を見開いたまま、忍び刀を握っている。引っ掛けて破けて顕わになった足首は赤く腫れあがっていた。おそらく、昼間にどこかの委員会と交戦していたのだろう。思えば忍び刀の動きも鈍くなっていた。
 五十嵐は俺を追うことはできない。俺は高く跳躍して、木の上に飛び乗った。五十嵐も俺を追おうと動き出したが、鉢屋がそれを制した。
「五十嵐、お前も無茶してくれるなよ」
 背後から風に乗って聞こえてきた会話。
「五月蝿い」
 風一つなく空気は静かだったが、五十嵐の声は震えて聞こえた。
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