は組という脅威

いろは対抗戦の段


 い組は安藤先生の部屋に集まった。安藤先生は外出している。
「純粋な戦力だけならろ組が手強いな」
 各組のメンバーを書きだした紙を見ながら、大将に決まった潮江先輩が呟いた。
「は組は地味に手強いと思うんだよね」
 私は勘右衛門に耳打ちした。
「武闘派の食満先輩に、薬の調合の得意な善法寺先輩、策謀の五十嵐。トリッキーな戦術で来られても不思議じゃないよ」
 人数が少ないからこそ採れる作戦もある。は組には和を乱すような上級生がいない。それに、善法寺先輩と食満先輩は六年間同室でとても仲が良い。さらに、五十嵐は食満先輩を慕っているし、善法寺先輩と五十嵐は兄妹。斉藤さんは余計な口出しはせずに、大人しく従う性格だし、三年生と二年生も真面目で癖のない者ばかりだ。ろ組とは違う意味で脅威になり得る。
「オマケに先の読めない一年は組だからなぁ」
 トラブル遭遇率ナンバーワンと呼ばれる一年は組。しかし、一年は組にはそれを乗り越えてきたという確かな実績がある。上級生相手でも怯まず、そして相手を見縊らず、互いを信頼し合っている。お互いのことをよく理解している。
 数年間かけて身につける忍者の心得をあの子たちは当然のように身につけている。
 は組には忍者の三病に罹患している者が一人もいない。
「アホだけどな」
 勘右衛門はにやっと笑う。そして、僅かに表情を曇らせた。
 五十嵐敬助。五年最後のは組。
 負の記憶なのだ。私たちはやってはいけないことをした。
「五十嵐に喜三太にしんべヱがいるだろう」
 天井からいきなり声が聞こえた。
「大丈夫だ。当たらないようにするから。さっさと、降りて来い、仙蔵」
 潮江先輩が呆れたように言うと、天井の板が開いて、そこから立花先輩が飛び降りてきた。そういえば、立花先輩は前に喜三太にしんべヱが絡むとロクなことがないとおっしゃっていた。
「は組の五十嵐が一年に防毒布を持ってくるように言っていた。堂々と長屋で作戦会議をするなど、アホのは組だ」
 防毒布で防げるような毒を使うのだろう、と立花先輩は笑った。
「確か、あそこには伊作がいたな」
 善法寺先輩が霞扇の術を得意としていることはよく知られている。演習ではあまり使わないが実習ではよく使っているらしい。
「お前らもちゃっと防毒布を持ってこいよ」
「なぁ、勘右衛門」
 潮江先輩の言葉を聞きつつ、尾浜に囁く。
「五十嵐が堂々と長屋で作戦会議したことが信用に足りると思うか?」
「裏はあるだろうね」
 五十嵐の、にやーっという笑みが容易に想像できる。成績トップの私たち、天才と呼ばれる三郎と優秀な雷蔵の二組に、八左ヱ門と五十嵐が対抗できるのは、五十嵐の策略が大きい。
「三郎の方がまた読めるんだよなぁ」
 三郎もなかなかの策士だが、必ず自信の特技である変装を利用するため、ある程度読むことは可能だ。しかし、五十嵐は何をしでかすのかが全く読めない。用意周到に突拍子もないことをやらかしてくれるのが五十嵐だ。
 大抵、演習で五十嵐と組まされる八左ヱ門ですら、五十嵐の動きを予想できるかは怪しい。
「は組がろ組に潰されてくれることを祈るよ」
 尾浜の言葉に私は頷いた。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -