隠さない作戦会議

いろは対抗戦の段


 学園長先生の思いつきで、縦割り組別対抗戦をすることになった。商品は食堂のタダ券。三日間の巻物争奪戦である。
「ろ組が勝ったも同然だな」
 ろ組は一年四人、三年が三人、四年が二人で、五年が三人、六年が二人。得意げの三郎を前に敬助はニヤついていた。
「どうした? 敬助」
 不自然に思った三郎が尋ねた。
「いやー、い組をどう潰すか考えるだけでワクワクしてしまって」
 五十嵐敬助は通常運転だった。



 一年十一人、二年二人、三年二人、四年一人に五年が一人、そして六年が二人。は組は上級生が少ない。は組は、明日からの対抗戦に備えて、作戦会議をすることになっていた。
「五十嵐先輩」
 迎えに行くことになっていた一年は組を探していると、後ろからにぎやかな声が聞こえてきた。
「黒木と一年は組のみんなだね」
 はーい、と元気よく返事をするは組の子たちの頭を撫で撫で、五年長屋に向かう。
「二年三年四年は揃ったぞ」
 五年長屋の私の部屋には、六年生と二三四年生が集まっていた。本当なら伊作と食満先輩の部屋に集まるのが良いのだが、二人の部屋は狭い。あの部屋にはミニチュア保健室と用具室が出来上がっている。
「一年も全員います」
 一年生をなるべく前に押し出して、円形に座る。狭いので、食満先輩は膝の上にしんべエと喜三太を、伊作は乱太郎を乗せた。
「ほらほら、黒木も遠慮しないで」
 何だか悔しかったので、黒木を呼ぶと、黒木は心底嫌そうな顔をした。
「僕そういうキャラじゃないので」
「えー、私がいつも学級委員会で意地悪していると思われるじゃん」
 そう言いながら、私は立ち上がった。
「意地悪じゃないですか」
「黒木には優しいよ」
 そして、ほーれ、つーかまえた、と後ろから逃げる黒木を捕まえて膝に乗せた。腕でがっちりと固定する。もう逃げられない。溜息の音が聞こえるが、聞かなかったことにする。
「留三郎、いつまでも用具と遊んでないで……」
 私と同じく後輩と遊んでいた食満先輩を善法寺先輩が咎めた。しんべエと喜三太と戯れている先輩は本当に楽しそうだ。深くは考えない方がよさそうだ。世の中、立ち入らない方が良いこともある。
「よし、作戦会議だ」
 はーい、とは組の良い子たちと斎藤さん返事をする。
「とりあえず、大将は食満先輩で良いですかね」
 大将は決めなくてはいけない。この対抗戦は大将がやられたら失格だ。狙われる大将は下級生にやらせるわけにはいかない。
「良いと思いまーす」
 一年は組が元気よく声を合わせて言った。
「善法寺先輩は敢えて空けておいて、私が参謀をやるよ」
 伊作は色々とやってもらいたいことがあるため、敢えて役職は振らない。伊作もそれが分かっているらしく、そうだね、と笑った。
「伊作よりは向いているだろうな」
 食満先輩が伊作に目をやりにやりと笑い、伊作が困ったように笑い返した。
「先輩は鉢屋先輩と肩を並べる悪戯……じゃなくて策略家ですからね」
 膝の上の黒木が顔を上げ、真顔でそう言ってきた。かわいいのかかわいくないのかよく分からない後輩だ。
「黒木、鉢屋の悪質極まりない悪戯と一緒にしないで」
 私は悪意ある個人攻撃だから、あいつの悪意のない無差別攻撃よりも遥かにマシだ。誰が何と言おうとも。
「似たようなものじゃないですか」
 違う違う、黒木は分かっていない。私はそう思ったが、黒木だけと話していても仕方がない。
「戦法は、みんなで敵を集める、善法寺先輩の眠り薬で叩く、そしてそんな混乱の中では大将がどちらか分からないから、とりあえず潮江と立花両方の首を捻る。あと、い組は優秀だから、我々の裏を読んで久々知、尾浜、綾部を対象に選んでくる可能性もあるから、ついでに潰す。以上っ、質問は?」
「伊勢ちゃんの好き嫌いが表れてるねー」
 斉藤さんがにへらっと笑いながらそう言った。
「好きはあんまり表れていない気がしますけど」
 皆本が溜息を吐いた。そんなことはない。
「敬う必要はないが、せめて先輩つけろよ」
 食満先輩が苦笑いをした。私も一応、目の前で名前を呼ぶときは先輩をつけている。ただ、敬意を払っていないだけだ。
 各々が様々な反応を見せる中、膝の上の丸い目が私を見上げた。
「ろ組についてはどのように対策するおつもりですか?」
「庄ちゃんは冷静だね。まぁ、でも結論から行くと、いけどんは無理。アレの動きを予想するのは不可能。止めるのも無理。中在家先輩というストッパーがあるけど、あれはどうしようもない」
 ああ、七松先輩、といった雰囲気が流れる。
「ただ、ろ組は逆に策を練ってくることもないはず。鉢屋も困っているだろうね。あっちはおそらく鉢屋が参謀だから」
 中在家先輩は敢えて空けておくだろう。そう、伊作と同じように。
「そういうわけで、忍道具と、あと防毒布を忘れないでね」
 じゃあ、解散、さっさと寝ろ、と私は手を叩いた。遅くまで起きていても仕方がない。下級生含めて策を練っていても仕方がない。
 七松先輩なら、まだある程度は動きが読める。それ以上に動きが読めないのは……
「こんなんで良いんですか?」
「でも、七松先輩はしょうがないぜ」
 味方であり、は組最大の戦力になり得る一年は組の良い子たち。
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