女装少年の秘密

女装少年の段


 泣きながらも肩に包帯を巻いたり、薬を飲ませたりしている善法寺先輩は私たちの方を向いて言った。
「私の口からは言えない」
 突っかかりそうな潮江先輩、何かを言おうとした立花先輩を制して、食満先輩がぼそりと言った。
「お前の妹なんだろ?」
 食満先輩の言葉に、伊作先輩が僅かに反応した。まさか、と思いながら顔色悪く横たわっている敬助と善法寺先輩の横顔を比べた。印象は違う。ただ、どこかが似ていた。
 この中で、善法寺先輩と敬助に一番よく関わっているのが食満先輩だ。
「輪郭がよく似ている。それに、全ての辻褄が合うだろう。お前が五十嵐を気にかける理由も、五十嵐が文次郎と仙蔵と綾部が嫌いな理由も」
 善法寺先輩は何も答えなかった。おい、と善法寺先輩に近づこうとした食満先輩の衣が引っ張られる。
「ええ、食満先輩。伊作は私の兄なんですよ」
 敬助だった。
「どうしようもない奴なんですけど、兄なんですよ」
 敬助は、善法寺先輩の忠告を聞かず、ゆっくりと体を起こした。
「そいつが、忍者になりたいとか言いだしたら、心配するじゃないですか。ついていってやらないとって思うじゃないですか」
 善法寺先輩が慌てて敬助を横にしようとしたが、敬助はそれを片手で制した。
「馬鹿にされていたら腹立たしいじゃないですか。穴に落ちていたら、穴掘った奴に腹立つじゃないですか」
 謎はゆっくりと溶解する。ああ、だからい組と作法委員の中でも、潮江先輩と立花先輩と綾部のことが嫌いなのか、と納得した。潮江先輩と立花先輩は善法寺先輩を完全に馬鹿にしていて、綾部先輩は善法寺先輩の落ちる落とし穴を掘り続ける。
「伊勢、じっとしてて」
 善法寺先輩が声を荒らげた。
「伊作は黙ってて」
 しかし、敬助の方が強かった。敬助はギロリと善法寺先輩を睨みつけた。
「先生方は知っているのか?」
 立花先輩は敬助が善法寺先輩の妹であると言うことよりも、女である敬助が忍術学園に忍たまとして入学していることが認知されているかが気になるようだった。
「学園長先生と、四年間担任持ってくれた大木先生はご存知です。他の先生方は気付いていないと思います」
「よく隠し通せたな」
 食満先輩は冷静だ。冷静というよりも、あまり気にしていないのかもしれない。
「同じ学年に鉢屋がいてくれてよかったですよ。上手く誤魔化すことができました」
 敬助は私の方を見てにやりと笑った。そういえば、敬助は私の友人では珍しく、不破よりも先に私と仲良くなった。大抵、とっつきやすい不破の友達が私の友達になると言うことが多いのだが、敬助は逆のパターンだった。
 敬助と仲良くなったきっかけは忘れてしまったが、何故今まで不自然に思わなかったのだろうか。
「それにしても、大変だったんですよ。兄に関わらないようにするのは」
 怪我をしないのは保健室で兄と会わないようにするためだったらしい。確かに、善法寺先輩は六年間保健委員だった。決して怪我をしない、ということから、何故私は保健室との関係性に気付かなかったのだろうか。
 考えれば考えるほど、敬助が女であることの根拠になった不可解な点はどんどん涌き出てくる。
「鉢屋悔しそうだね」
「それはもうな」
 変装が得意である自負を裏返せば、他人の変装を見破るのが得意であると言うことになる。
「ということは、俺たちが揉んだのって本物か?」
 七松先輩の言葉で、私たちは思い出してはいけない記憶を引っ張り出された。そう、ついこの前食堂で、敬助の胸の大きさかリアルだという話になった。詰め物かと尋ねると、企業秘密なんて帰すものだから、五年生全員とその場にいた七松先輩は、みんなで触らせて貰ったのだ。
「胸のこと? そうだけど」
 善法寺先輩が泣きだした。善法寺先輩の気持ちは分からなくもない。だが、相手が敬助なんだから諦めるべきだな。
「私はくの一に向いているらしいね。大木先生に言われた……って兄貴、何で泣いてるの?」
 ほらほら、全然気づいていない。立花先輩まで目頭抑えている。そういえば、立花先輩には妹がいたな、とどうでもいいことを私は思い出した。
「伊作、ほら元気出せ」
 潮江先輩と中在家先輩、潮江先輩までが善法寺先輩を慰めている。
「伊作、怪我の手当てありがとう。それで、実習は再開するんですか?」
「するはずないだろっ」
 食満先輩、ありがとうございます。
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