ベストコンビ

ダブルス実習の段


 対抗戦のルールは簡単だ。
 二人一組で、一つは姫、一人は護衛と言う設定だ。しかしながら、なぜか姫も戦えることになっている。ただ、姫は武器を持ってはいけない。護衛が姫を確保したら勝ちである。
 その日、私はいつもよりも丹念に化粧をした。そして、立花先輩の部屋から勝手に拝借した着物を着る。私は薄色の着物は似合うわけではないが、今回は女装よりも立花先輩のく者であることの方が重要だったため構わなかった。嫌がらせということもあるが、他にいくつも理由はある。私よりも背の高い立花先輩の着物は着やすかった。
 集合場所の校門の前に行くと竹谷はすでに待っていた。竹谷は私を見るなり呆れた表情で、本当にやってきたのかよ、と呟いた。
「昨日はあれだけ戦意があったのに、情けない」
「実際に見ると、まずいことをやらかしているな、って思って」
 私たちは指示されたスタート地点まで歩きながら話していた。竹谷は大きな口を少しだけ開けて苦笑を浮かべている。
「へぇー、私は立花先輩の部屋に忍び込んでこれをとってくる時も、欠片もそんなことは思わなかったよ。むしろ、楽しかった」
「末恐ろしい」
「そんな私が相方で良かっただろ、竹谷。感謝しなよ」
 そう言うと、竹谷ははいはい、と適当に相槌を打った。私と竹谷は比較的相性が良い。というのは、竹谷が作戦を私に一任してくれるからだ。私の相性の悪い相手としては鉢屋三郎がいる。仲は良いが、鉢屋の体系づけられた戦術では私の考え方は生かせないし、逆に私の考え方を元に鉢屋が戦術を組むのも難しい。結局、お互いの良いところを潰し合ってしまう。
 しかし、竹谷は違う。こうして色々言ってくることはあるが、彼自身が作戦を提案することはない。竹谷自身もそのようなことを得手としてはいないのだ。私が最も頼りにしているのは、彼の土壇場の力であり、私の作戦は常にそれを求めている。
 私の立てる作戦には、なぜか必ず無理があるのだ。ただ、それは私のせいだけではなく、大体不利な戦力で作戦を立案する必要があるという状況的な要因もある。
 とにかく、実力はさておき私たちは相性が良い。そして、それはこの二人も同じなのだ。
「おい、五十嵐。てめぇなに考えてやがるっ。伊作の気力を削るな」
 背後から声が聞こえる。振り返ると、伊作と食満先輩がいた。伊作は青い顔をして胃を抑えていて、食満先輩はあきれ顔だ。そして、なぜか竹谷が謝っていた。敵に謝るとは、竹谷は一体何を考えているのだろうか。
「仙蔵、ごめん、本当にごめん」
 伊作はぶつぶつと呟いていたが、謝るべきは立花先輩の方なのに、何故伊作が謝らないといけないのか、私は疑問を感じた。
「俺たちと戦っている時に汚れても、俺たちのせいじゃないからな、お前のせいだからな。一人でちゃんと仙蔵のところに謝りに行けよ」
「拒否します」
 私は即答した。立花先輩のところに謝りに行くなんて、冗談じゃない。
「留三郎、諦めよう。仙蔵、間違いなく僕たちも巻き込むよ」
「今すぐ着替えて来い、五十嵐」
 食満先輩は、伊作の言葉を聞くと即座にそう言ってきた。食満先輩に言われると少し弱るなぁ、と思ってもいないことを唇だけで呟きながら、私は、首を傾けて溜息を吐く竹谷に言った。
「嫌です。ねぇ、竹谷」
「俺に同意を求めるな。作戦はお前に一任しているんだから」
 竹谷は即答した。
 食満先輩はぽりぽりと頬をかき、少し考えるような仕草をした。食満先輩が、私に対して言葉を選ぶなんて珍しい、とそう思っていると、食満先輩は漸くゆっくりと口を開いた。
「程々にしないと伊作が……」
 そこまで言ったところで伊作が食満先輩を肘で突いた。食満先輩は伊作の方を見て、小さく溜息を吐くと、私の方に向き直った。
「いいや、忘れてくれ」
「何ですか? 気になるんですけど」
 食満先輩の、彼にしては珍しい言動もそうだが、伊作が先輩の言葉を止めたことも気になった。
「程々にしないと、伊作が呆れてしまうと思ってな」
「分かりました」
 私は腑に落ちなかったが、伊作がそれを望んでいるのならば、と思い、それ以上は追及しないことにした。
「そういうわけで、勝ちはもぎ取ってやりますからね。覚悟しておいてくださいね、先輩方」
 にやりと笑いながら、私は二人の手元を確認した。流石に向こうも武器を隠してきてはいるようだ、と。適当なルールしか書いていなかったため、意図的しているのか否か、私たちは姫か護衛かどちらなのかということを隠すことができる。事前に申告する義務もなく、さらに相手に知らせる必要もない。このようになれば、多くの場合、武器を隠すので、忍者の実習らしいとは言えるだろうが。
 二人だけの実習ということで、ただの体術や武器の扱い方などの勝負になりそうだが、どちらが姫でどちらが護衛なのかが分からないため、この実習には戦術がきいてくるのだ。
「そうはさせねぇ」
 私は食満先輩の声を聞きながら、伊作を見た。溜息をついている伊作は、兄妹だからだろうか、私とよく似て、実習の際には作戦をほとんど一人で立案する。私と伊作の戦いだけは、もう既にほとんど終わっているのだ。あとは結果だけである。
 食満先輩は伊作のことを信頼し、伊作の作戦に全力で従う。また、二人も、私と竹谷と同じように、とても相性が良いのだ。
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