友達

夏休みタソガレドキ潜入の段


「先輩も後輩も肉親も、友達にはなれない」
 だから、私たちがこの役をするべきだったんだよ、と伊作は続けた。伊作は友人に拘る。伊作が鉢屋を気に入ってるのもこれが理由だろう。
 五十嵐の一番の親友は鉢屋三郎だということは明白だ。
「まぁ、そういうわけで君と僕もなかなか貴重な関係なんだよ、多分」
「多分、ってなんだよ」
 ニィと悪戯っぽく笑う伊作をどつくと、どつき返された。地味に痛い。力強いんだから手加減しろよな、と言えば、君にはこのぐらいが丁度良い、と返された。



 園田村までの道は長かった。
「もう……だめ……」
 真っ先に根を上げたのは福富しんべヱだった。ふらふらと倒れるように大木の根元にどすっと座り込み、足を止めた不破を見上げた。
 は組の子たちと、土井先生、山田先生が振り返った。先頭を走っていた鉢屋三郎やその後ろを走っていたきり丸はずいぶん遠くにいたが、立ち止まって振り返った。
 私はしゃがみこみしんべヱに手を差し出した。
「ほら、福富、手を貸してあげるから」
 土井先生が、しんべヱ、と彼の名を励ますように呼んだと。福富は私の手を取ってはくれたが、腰が上がらないようだった。しかし、福富を背負って走ることはできない。
 どうしようかと思った矢先だった。
「ほら、しんべヱ、しっかりしろ」
 随分と先にいたはずのきり丸が、福富のところに走ってきた。上がりきった息を抑えつけるようにして声を出し、福富を励ます。
「乱太郎が待っているんだぞ」
 そう言って、きり丸は手を差し伸べる。福富は静かに私の手を離すと、きり丸の手を握った。きり丸も福富もお互いの手を強く握っているせいか、二人の手の甲の骨が浮き出て見えた。
 友達には敵わない。
「しんべヱ、頑張ろうな」
 福富が立ちあがり、二人の目の高さが近くなった。うん、と口を真一文字に結んで福富は頷いた。それに対し、きり丸は照れくさそうに笑った。
「しんべヱ、あともう少しだからな」
 鉢屋三郎はいつの間にかすぐ近くにやってきていた。
「三郎、君は先に行きなよ」
 雷蔵が言うと、三郎は福富ときり丸をちらりと見た後、行くぞ、と言って走りだした。いつの間にか二人の周りに集まってきたは組の子たちも、頑張ろう、といって走りだした。きり丸が手を引き、福富も走る。ゆっくりだったが、土井先生も山田先生も福富を褒めていた。
 雷蔵を見ると、雷蔵はきり丸と福富を見て笑っていた。



 私たちは無事に園田村についた。乱太郎も無事についたようで、鉢屋が知らせてくれた時は喜んだ。乙名さんに戦うことを頼まれ、アルバイト代を出してもらえることになったきり丸がはりきり、土井先生に怒られていた。
「きり丸、銭と命、どっちが大切なんだ」
 土井先生に怒られているきり丸を背に、私たちはお茶を飲んだ。命をかけて働くといったのがいけなかったらしい。
 優しい先生だ。この人は伊作に少し似ている。伊作もこういうことを許せない人だ。ただ、伊作は土井先生とは違う。伊作は自分のことを棚に上げる。自分は危険に飛び込んでおきながら、他人が危険に晒されるのは許さない。
「おい、五十嵐、食べないのか?」
 おにぎりをしんべヱに渡して、縁側から離れようとした私に三郎が尋ねた。
「ちょっと寝かせて。疲れた」
 タソガレドキでは武器の手入れが大変で、ゆっくり寝ることができなかった。タソガレドキから抜けたことに対する安心感か、今から戦わないといけないのに関わらず、ずっしりとした疲労を感じていた。
 伊作の方を見ると、佐武に凭れかかられて苦笑いをしていた。うつらうつらしている笹山と二郭の方にも気を配っているようだった。私は伊作に気付かれないようにするりと奥の部屋に移動した。
 横になるとすぐに、大人数が歩き回る音がした。どうやら、みんな休むらしい。私もそのまま睡魔に身を任せた。
 目が覚めた時に真っ先に視界に入ってきたのは鉢屋三郎だった。目が覚めたか、と笑う鉢屋に尋ねる。
「鉢屋は宿題どうだったわけ?」
 宿題ごちゃ混ぜ事件で久々知が大変だったのは知ったが、後の五年生はどうだったのだろうか。私は割と真剣に心配をしていた。鉢屋は意味深げに淡々と話し始めた。
「普通に五年生の宿題だったが、雷蔵が一年生の宿題貰って、本当にこんな簡単な宿題で良いのか迷った挙句にやってこれなかったから」
 そして、にやりと口元を歪める鉢屋らしい笑顔を浮かべてこう続けた。
「私もやらなかった」
「あんたをタソガレドキに潜入させればよかったわ、この天才さんよぉ」
 鉢屋の胸倉を掴むとわざとらしい飄々とした表情を浮かべられる。
「何故、善法寺伊作先輩の宿題を私がやらなくてはいけないのか」
 鉢屋は胸倉を掴まれながらも、大げさな身振り手振りで全く分からない、という表情を作った。
「天才だろう」
 ほら、得意の忍術見せつけるんだろ、と続けるといきなり鉢屋の表情が変わった。胸倉を掴んでいた腕を掴まれる。
「何かいらっとした」
 真顔だがふざけていることは分かっている。
 きゃー、女子に酷いわ、鉢屋さん、と裏声で喋ると、どこが女子だ女装少年、と返されうつ伏せに地面に押し付けられた。この天才さんに体術でかなうはずがない。襲われるー、とじたばたともがいていると、そんな趣味はないと笑われる。
 大声でげらげらと笑っていたからだろう。
「三郎、敬助、一年生寝ているんだから静かにしなよ」
 勢いよく扉を空けて入ってきた不破雷蔵に怒られた。
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