五年底辺二人組

ダブルス実習の段


 五年と六年の合同実習が組まれた。今回はダブルス実習だ。二人一組で、六年生から札を奪う。私は鉢屋と不破の部屋で、相方の竹谷と一緒に、その知らせを覗き込んでいた。鉢屋と不破は六年い組の二人らしい。実技の成績からすると、妥当な組み合わせだ。しかし、二人、というよりも鉢屋が沈んでいる。
 鉢屋は立花先輩と相性が悪い。騙すことが得意な三郎は、六年生相手にも有利に立ち回ることも多い。そのせいだろう、それを上手く避ける方策を瞬時に考え出す「引き出し」を多く持っている立花先輩と対人するのが苦手なのだ。部屋の隅で不破に慰められているのを見ながら、むしろ、代わって欲しいぐらいだ、と私は思った。
 大義名分をもって潮江先輩と立花先輩と戦える絶好の機会である。むしろ、私に譲れよ鉢屋、とそんなことを考えながら、竹谷に向き直った。
「相手は六年は組か。良かったな」
 竹谷は、今回は当たりだ、とそう言ってにやりと笑った。
「あのさぁ、竹谷。簡単には行かないと思うんだよね……私たちはこの実習勝ちに行かなきゃいけないわけだろ。その理由は?」
「それは勿論、この実習を何とかクリアしないと成績が……って、まさか?」
 私たちはあまり成績が良くない。教科の補習のみならず、実技の補習も頻繁に受けている。学園も、なるべく落第はさせないようには手を打ってくれるが、決して落第をさせないわけではない。
「あの人たち、大人げないくらいに本気でかかってくるよ」
 六年は組、善法寺伊作と食満留三郎先輩。二人はあまり成績が良くない。特に、伊作は進級が危ういほどに成績が悪いのだ。あまり成績の良くない私たちに勝たせてやろう、などという気はないに等しいだろう。決して、楽な相手ではない。
 特に、枷が外れてしまった伊作がえげつないのは、よく分かっている。



 そのまま、私たちは作戦会議をした。勿論、鉢屋と不破の部屋だ。鉢屋は、邪魔だだの狭いだの言い続けていたが、移動するのも面倒なので、居座ることにした。因みに、不破は図書委員の仕事に行ってしまったため、部屋にはいなかった。不破が抜けているため、部屋の中にいるのは三人だ。一人増えたぐらいだ、大して狭くはないだろう、と私は思った。
 ただ、同じ部屋にいるのに一人だけ仲間に入れないのが寂しいだけなのだろう、とぶつぶつと文句を言い続ける鉢屋を見ながら思った。しかし、仲間はずれになってしまうのは仕方がない。班が違うのはどうすることもできない。
「私たちが心掛けないといけないことがある」
 私は、作戦立案用の一枚の紙を手でたたいた。
「あの二人を離さないといけない。あの二人は多分双忍の術が使える」
 双忍の術は難しいが、上手くやられてしまうと太刀打ちできないのだ。それは、実技で鉢屋と不破を相手にしているからこそ分かる。双忍の術では、一と一を足しても決して二にはならない。必ず、それ以上になる。
 鉢屋と不破相手にも梃子摺っている私たちが、六年生の双忍の術に対抗できるはずがない。
「でも、組別対抗戦とか、合同実習では使っていなかっただろ」
 竹谷が明るく言った。竹谷は深く考えずに発言をする。
「組別対抗戦では、あの二人は数少ない上級生だから、一緒にする余裕がなかったんだよ」
 組別対抗戦では、伊作に単独で動いてもらう必要があった。上級生が一緒に行動する余裕などなかった。また、人数も多いと、状況は変わってくる。個人が一番力を発揮させることのできる策が、必ずしも全体の力を一番引き出せる策ではないのだ。
「今回は違う。あの二人の双忍の術。想像してみてよ。限りなく厄介だよ」
 六年は組の二人が仲が良いことは学園でもよく知られている。六年全員で実習に行っても、最後に二人だけで帰ってくることなども多い。それは、何かとより道の多い伊作を食満先輩が待っているからなのだが。
「不運でどうにかなってくれないのかなぁ」
 竹谷の何気ない呟きに、私は手に持っていた筆を硯の上に置き直した。
「六年生なめんなよ……と言いたいところだけど」
 食事を共にする六年は組の二人。彼らが恐ろしいことを、私は五年生の中で一番よく分かっている。鉢屋にも言ったことがある。不運と言われる善法寺伊作も、実力がないわけではない。六年生に相応しい実力を持っている。
 潮江先輩と立花先輩を認めていないだけで、伊作はそれだけの力を持っている。
「なんかそんな気がしてきた」
 三人で行動をしていても、伊作の不運に私は巻き込まれないのに、食満先輩だけが巻き込まれることが多々ある。昨日も伊作がお茶をこぼした時、食満先輩の服にだけかかって、私は何の被害もなかった。兄の不運を望むのも嫌な話だが、仕方がないのだ。
 拳を作って竹谷に向ける。竹谷も、五年生の中では一番大きな手で歪な拳を作り、私の拳にぶつけた。
「絶対に勝とう」
「当然」
 五年生の中で最も大きく歪な拳と、最も小さく細い拳。対照的な拳だが、心は同じだ。そう、私たちだって成績が危ない。後ろで未だにごちゃごちゃ言っている鉢屋三郎のように、その時間さえ我慢して乗り切れば良いなんてものではないのだ。私たちは本気だ。
 特に、私は落第をするわけにはいかなかった。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -