用具委員長と保健委員長

用具委員長の段


 実習で怪我をして保健室に行くと、善法寺先輩がいた。鉢屋か、と善法寺先輩は朗らかに笑った。手際良く包帯を巻かれる。善法寺先輩は、私のように滅多に来ない客には小言をいうことがあまりない。
 因みに、七松先輩と食満先輩と五十嵐は小言をよく言われているらしい。
「鉢屋、保健委員の仕事を覚えない?」
 黙って手当てをしていた善法寺先輩が突然顔を上げてそう尋ねた。突然の言葉に驚いた。
「嫌ですよ。検便はごめんですから」
 しかし、保健委員の仕事など御免である。大体、私は学級委員だ。不運な忍たまが集まるような嫌われる委員会の仕事を好き好んでやろうとは思わない。
「別に委員になれって言っているわけじゃないよ」
 検便なんかはしなくても良いんだよ、と善法寺先輩は笑った。その時に、俺は善法寺先輩の意図を薄らと感づいた。
「君は才能があるから、ちょっと勉強すれば武闘大会で小平太を負かすこともできると思うよ」
 その言葉に私は確信した。この先輩は私に保健委員の仕事をしてほしいわけではない。
「引き受けましょう」
 そう言うと、善法寺先輩は嬉しそうにありがとう、とお礼を言ってきた。七松先輩に勝てるような武術も魅力的だが、それにつられたと思われるのは心外だった。一つ上の六年生。その一年の差を見せつけて喜ぶような先輩ではないことは分かっているが、先輩の思い通りになっていると思われるのは気にくわなかった。
「あなたがいなくなった後、無茶ばかりする同級生の手当てをしてやる人がいなくなるじゃないですか」
 新野先生と三反田だけでは処置ができないだろう。先輩たちが悔しくなるほどに安心して卒業できるような六年生になろう、と。それだけの実力が五年生にあると示したかった。
「それで、見返りは先輩の卒業後の保健委員の補助で良いんですよね」
 途中から薄々感づき始めた、善法寺先輩の真意。善法寺先輩は私のことを気に入っている。六年生の中では一番気に入られていると思う。しかし、何の見返りもなしに自分が六年間かけて身につけてきた技を教えてくれるはずがない。
 善法寺先輩の卒業後の保健委員会。四年生になる三反田数馬だけでは荷が重い。
「鉢屋は賢くて助かるよ」
 案の定、善法寺先輩はそう言って笑った。


 用具委員会を六年長屋のは組の部屋で行うらしい。朝食時に来るように言われ、昼食時に念を押された。そこまでされたら行かざるを得ない。
 今後の全学年の実習予定と使用道具から用具委員会の活動予定を立てていく。私も全てに参加しなくてはいけないらしい。私の補習予定と食満先輩の補習予定と一年は組の補習予定。補習の入りやすい日は分かっているからそれを避けて予定を立てていく。
 私たちは補習が入りやすい日が分かるくらいに補習を受けている。
 食満先輩が一生懸命予定を組んでいる間、一年生は暇を持て余していた。
「善法寺先輩のこの薬棚は食満先輩が作ったんですか?」
 きょろきょろしていた山村はそう尋ねた。山村の質問に、筆を動かしていた食満先輩は筆を持つ手を止めて、視線を逸らせた。聞かれたくないことなのだろうか。
「あはは、違うよ。これは僕たちが一年生の時の用具委員長に作ってもらったんだよ」
 食満先輩の代わりに、衝立の向こうから明るい笑い声と一緒に伊作の声が聞こえてきた。
「嫌なこと思い出させるな」
「あれは食満が悪いよ」
 げっそりとした食満先輩と笑顔で衝立からひょっこり顔を出す伊作。
 私は先輩方が一年生の時の六年生を知らない。先輩方が一年生の時に何があったのだろうか。少し気になったが食満先輩が心の底から思い出したくないと思っているようだったからそれ以上の追及をしなかった。


 用具委員と五十嵐を返した後、伊作が溜め息混じりに言った。
「折角伊勢に保健委員の仕事を手伝わせていたのにね」
「伊勢は三反田よりも作兵衛、伏木蔵よりも平太と仲が良いから自然な結果だ」
 六年生の卒業後、用具委員会も保健委員会も委員会の最上級生が今の三年生になる。それではやっていけない。そこで俺たちが目をつけたのが来年六年生になる学級委員だ。六年生になると実習が増えて、学級委員の仕事は減る。彼らは予算委員会の利害も少なく、かつ仕事も少ない。
 五年生の学級委員は委員会の補佐に持ってこいの人材なのだ。
「それで、伊作は尾浜に頼むのか? 俺はあっさり断られたが」
 伊作が妹の五十嵐に目をつけていたのを知っていたから、俺は最初、尾浜に頼みに行った。
 しかし、尾浜は理由も言わずに断った。
「鉢屋に頼んだんだよ。尾浜はいつも伊勢があんな感じだから申し訳なくて」
 よく頼めたなぁ、と感心した。鉢屋は学級委員三人の中では一番余計な仕事を嫌うような印象がある。しかし、伊作のことだ。上手く交換条件を提示できたのだろう。
 伊作は忍者としてやっていけるだけの素質はある。
「本当に久々知も尾浜も……仙蔵と文次郎も、申し訳なくて合わせる顔がないよ」
 しかし、現実はなかなか上手くは進まない。
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