は組と稗田八方斎

用具委員長の段


 三之助と左門を探し回っている一年生を見つけることは多々ある。悪いな、と言って一緒に探すことになる。六年生や四年生の先輩に言われたからというのもあるだろうが、一年生は一生懸命、諦めずに探す。
 本当にあいつらは一年生に助けられているよな、と思っていた。
 食満先輩だって同じで、どれだけ怒鳴ろうとも、一年生は食満先輩のことを嫌うことはない。特に平太は怖がりで食満先輩のことを一番怖がっているのに、一年生の中では一番食満先輩にはっきりと意見を言う。組別対抗戦の時も、平太は食満先輩を止めようとしていた。
 食満先輩も一年生に救われているんじゃねぇかと俺は思う。


 敵を見縊っているわけできはないことは分かっている。五十嵐先輩の掌の隙間から小しころが覗いていた。機を窺っているのだ。
「ちびっちゃった」
 どうしよう、と平太は涙目で俺の方を見た。正直、どうしてやることもできない。俺たちはドクタケ忍者隊の幕の中で縛られ、並べられていた。平太を責めることはできない。一年坊主が忍者隊に囚われて、怖くない方が珍しいはずなのだ。物凄く申し訳ない顔なんかしなくても構わないはずなのだ。
「先輩、お腹空いちゃった」
 ねー、と顔を見合わせてにっこり笑っているのは、一年は組の二人だ。怖がる怖がらない以前に、緊張感がない。平太が必要以上に申し訳なさそうな顔をしているのは、二人の存在が大きいだろう。しかし、二人を責めることもできない。思わず呆れたような溜息は漏れてしまうが、こいつらのおかげで俺も深刻に考えずに済んでいた。
 手のかかる一年生だが、そんな一年生に救われているなぁ、と思う。
「稗田八方斎殿ー、予備の褌ありますか?」
 一番な呑気なのは、この中での最上級生の五十嵐先輩だ。平然と褌を要求する五十嵐先輩に、平太は今にも泣きそうな顔をしている。
「早く密書を出せ」
「今日は持ってないですよ。団子屋帰りなんですから。とにかく、さっさと褌を持ってきて解放してくださいよ」
 いつものお使いだって、大したものではないんですから、という先輩の言うことは間違っていないが、場違いではある。
「良いんですか? そんなに強気で」
 一応小声で尋ねてみる。
「いや、だって持っていないのは本当だからさ」
 そういう問題ではない、そう思った矢先だった。ドクタケ忍者たちがざわめいた。
「お前は忍術学園の忍たまだな」
 稗田八方斎が木の上に向かって叫んだ。五十嵐先輩は、本当に隠れるのが下手だよね、と言って苦笑いをしながら、素早く縄を抜けると、俺たちの縄も解いてくれた。
「六年目だ。いい加減名前覚えろ、ドクタケ忍頭の……なんだ?」
 何故食満先輩が、と思う間もなかった。何気に食満先輩は五十嵐先輩よりも酷いんですけど、という喉まで出かかった言葉を抑える。
「なぁ、平太」
 縄の解けた平太の手を握り、戦闘態勢に入った五十嵐先輩と食満先輩を眺める。
「今度藤内と数馬にちゃんと訊いておく」
 は組って一体何なんだ、何故ドクタケ忍者隊首領とこんなに親しげなんだ、と俺は忍者には見えないくらい豪快に暴れる善法寺先輩と五十嵐先輩、笑顔でそれを見ている一年は組の二人を見て、そう思った。
 そもそも、五十嵐先輩の怪我は大丈夫なのだろうか。
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