ごめんなさいとありがとう

天女様と王様の段


 菅井さんと諏訪。二人と共に過ごした時間は少ない。ただ、私はあの二人のことを生涯忘れないだろう。
「五十嵐、待っているから」
 諏訪との別れが辛くなかったのは、いつか会えるんじゃないか、なんてそう思ってしまったからだ。笑顔でそう言われれば信じてしまう。たとえ、根拠など欠片もなかったとしても。
 二人については私の理解の範疇を超えたことだった。尾浜に尋ねれば、私の知らないようなことも知ることができるかもしれないが、尋ねる気はしなかった。
 尾浜と諏訪の存在は大きかった。
 感情を抑え込むのは難しい。私はそれが下手だから、それを少しずつ吐き出すようにしている。それを吐き出す相手がいると言うことは幸せなことだ。
 自制は難しいのだ。菅井さんを殺した動機は許されることではないだろう。もう、己の手で決着をつけるのは懲り懲りだ。
「自制は大切だよね」
「本当にね」
 味噌汁の里芋をつまみながら、そう呟くと、向かいに座ってご飯を飲み込んだ伊作がそう返してきた。不満げな声は少なくとも今日一日は変える気はないらしい。
「伊作、まだ怒っているの?」
 呆れたように溜息をつくと、伊作は私を睨みつけた。別に本気で怒っているわけではない伊作は恐れるに足りない。そう思いながら、伊作に構わず味噌汁を飲んでいると、隣に座っていた食満先輩が困ったように笑った。
 最近気付いたことは伊作が怒っている時には食満先輩は怒らないということだ。逆に食満先輩が怒っている時は伊作は怒らない。申し合わせていることもないだろうに何故だろう、と不思議に思う。
「自制よりもお前、人に素直に謝れないだろう」
 食満先輩の言葉で真っ先に思い浮かんだのは尾浜だった。悔しいが、先輩の指摘は正しい。
「お礼も言いませんよ」
「威張って言うな」
 悔しい者は悔しいので開き直ってみると、案の定怒鳴られた。
 お礼を言う気はあるのは分かってほしいものだと思いながら、私はひっそりと甘味処に行く予定を立てた。
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