仲良くなりたい先輩

用具委員長の段


 怖い先輩だと思う。すぐに怒鳴るし六年生だから。でも、ちゃんと話は聞いてくれるし、悪いことした時は僕たち相手にも謝ってくれる。だから、僕は食満先輩のことが好きだ。困った時とか、先輩を頼りたい時は食満先輩のところに行く。
 そんな先輩と仲良しなのが五十嵐先輩だ。五十嵐先輩も怖い先輩で、六年生に喧嘩を売ってしまうぐらいに気が強い。ほとんど話したことはなかったけど、予算争奪戦の時にちょっとだけお話しした。五十嵐先輩は僕の話を聞いてくれた。ちゃんとお話したら、頭ごなしに怒らないところが、食満先輩と五十嵐先輩は似ていると思う。
 食満先輩は来年には卒業してしまう。だから、五十嵐先輩と仲良くなりたかった。五十嵐先輩なら、きっと僕のお話も聞いてくれるんじゃないか、ってそう思った。でも、なかなかお会いする機会がなかった。
 だから、お団子屋さんにつれていって貰える、って聞いた時はすごく嬉しかった。喜三太としんべヱは立花先輩と仲良しだから、少しだけ遠慮気味だったけど、僕は普通に嬉しかった。だから、すごく楽しみにしていた。
「まさか、穴に落ちるとは」
 善法寺先輩の不運移ったかなぁ、と五十嵐先輩はポリポリと掻いた。道中に穴があって、一番前を歩いていた僕と先輩が落ちてしまったのだ。
「あとで、綾部は締めるとして」
 先輩はにやりと笑って言ったけど、冗談には聞こえなくてちょっと怖かった。大丈夫ですか、と富松先輩としんべヱと喜三太が穴を覗き込む。
「鉤縄投げるから離れてね」
 先輩は懐からさっと鉤縄を取りだした。いつも忍具を持っているなんて、さすが五年生だなぁ、と思った。先輩はしんべヱたちがちゃんと離れたか確認を取った後、鎖縄を投げた。
 僕が穴の土壁を登った後に先輩が登り切った。先輩は土だらけになって登っていた。僕が土壁を崩して登ったせいで、先輩も登りにくかったんだと思った。


 お団子屋さんのお団子は美味しかった。先輩は甘味のお店には詳しいらしい。
「私は忍術学園で一番学園長先生にお使いを頼まれるからね」
 いつも甘味を買いに行かされるからね、と先輩は人差し指を突き立てて言った。そういえば、先輩はよく学園長先生にお使いを頼まれている気がする。
「五十嵐先輩、何で立花先輩のことが嫌いなんですか?」
 喜三太がそう尋ねて、しんべヱもですかー、と続けて尋ねる。富松先輩は二人を慌てて咎めていた。富松先輩は五十嵐先輩が気分を悪くすると思ったんだと思う。
「ひみつ」
 紅色のきれいな袖の隙間から人差し指を出して、口の端っこをちょっとだけ上げるみたいにして笑った先輩は、女の人のようだった。先輩の女装が、本当の女の人のように見えたのは初めてだったから、びっくりした。先輩は女装がお上手だけど、男の人って分かっているから、女の人には見えなかった。
「先輩、それ男がやったら気持ち悪いだけですよ」
 富松先輩の言葉に、今さらだろう、と先輩は笑った。
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