二人の天女様

天女様と王様の段


 私は死んだ部屋まで戻らなければ、姿を消すことができない。だから、私は諏訪以外の人間に見つからないように警戒していたはずだった。
 私だって自分の生活があるし、いつもここに来れるわけではない。だから、忍たまたちの実習が終わった後にしか行くことはできない。だから、忍たまと遭遇することは想定外のことではなかった。
「あんたが菅井紫音か」
 天井の板が外れ、飛び降りてきたのは、青紫の制服の五年生だった。五年生と言えば、鉢屋三郎に不破雷蔵、竹谷八左衛門に久々知兵助しかいなかったはずだ。
 この忍たまはその中の誰でもない。
 この忍たまは誰なの。そんな疑問が頭の中を支配する。
「本当に存在したんだな」
 その忍たまは一人で勝手に何度も頷きながら、私に苦無を向けた。血の気がさーっと引いた。私は腰が抜けそうになったが、力を振り絞って背を向けて走った。ここから長屋は遠いが、走ることのできない距離ではない。
 あの忍たまが何者で、何故私のことを知っているのかが分からなかった。


 私は悲鳴を上げる菅井紫音を見上げた。何故、ここに彼女がいるのかが分からなかった。彼女は死んだはずだ。私が殺したはずだ。
 私が忍び刀で斬り殺したはずだ。
「菅井さん、あのさぁ」
 何でここにいるの、とそう尋ねようとしたその時だった。大きな足音と共に、尾浜と諏訪が走って来た。来ないで、と叫んだ。私の罪を知られたくなかった。
 しかし、二人は私の方へ走ってくると、何も言わず背を向けて菅井紫音の前に立った。
「大丈夫だから」
 諏訪の消え入りそうな声は、背を向けているためにいつもよりもさらに聞こえにくくなるはずなのに、何故かよく通っていた。
「足怪我しているんだろ、じっとしときなよ」
 尾浜は何故か言いにくそうな申し訳なさそうな声で言った。いつも腹立たしいほど明るく能天気なため、何故、そう言われるのかが分からなかった。
「……私を元の場所へ戻してください」
「元に戻せ。五十嵐よりも痛い殺し方してやる」
 尾浜は容赦なく苦無をつきつけ、諏訪はどこから持ってきたのだろう、忍び刀をつきつけていた。諏訪の手は震えていた。ただ、言葉ははっきりとしていた。
 菅井紫音は何故生きているのか。元の場所とはどこなのか。諏訪と尾浜は菅井紫音のことを何故知っているのか。
 そして、何故、私が菅井紫音を殺したことを知っているのか。
 頭の中が滅茶苦茶になった私は、ただ二人の背を見上げることしかできなかった。
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