女装少年は屈しない

天女様と王様の段


「要注意なのは声なく涙だけ流している時か、思いっきり声出して泣いている時かな。まぁ、それでも泣いて自己完結できる子だから、放っておけば良いよ」


 考えるべきことは多くて、膨れ上がった感情は処理のしようがなかった。しかし、思い悩んでいても仕方がない。私は顔を拭くと、忍び刀を持った。
「諏訪、あいつどこに行きやがった」
 今やるべきことは、厠に行くような雰囲気で部屋を出て行ったのに関わらず、戻って来ない諏訪を探しに行くことだ。とりあえず、諏訪以外はみんな敵だと見做してよいと言うことが分かった。忍び刀を振りまわすのは危険だが、私が素手で抑えられない実力の忍たまは、そう簡単には死なないだろう、と私は思うことにした。
 そういうわけで、私が諏訪と話していた尾浜に斬りかかっても誰にも責められる所以はない。向かい合って何かを話している二人を見た瞬間、頭の中が真っ白になったのだ。
 諏訪が殺される。
「復活早くない?」
 苦無で忍び刀の動きを止めていく尾浜に、私はそこそこの速さで斬りかかる。尾浜は久々知と違って、刃物を得手としていないため、このくらいが限界だ。何回か忍び刀をぶつけると、少し離れたところから拍手が聞こえてきた。
「何呑気に手を叩いているの?」
 諏訪だ。私は苦無とぶつけていた忍び刀を下ろし、振り返って尋ねた。
「すごいなぁって、思って」
 諏訪が素直に褒めてくれるなんて珍しいなぁ、と思いながらも、私は無表情で詰め寄る。
「夜の一人歩きは危ないって言っただろう」
 そう言うと、ごめん、と諏訪は素直に謝った。
「とりあえず、俺もお前らに協力はする」
 背後から聞こえてきた声に振り返る。尾浜は苦無を仕舞い、私の顔をじっと見ていた。
 私は諏訪を見た。怪我ひとつない。
「分かった」
 私は尾浜を信じることにした。この中で、鍵を握っているであろう彼女を生かしておくのは賢明な判断だと思ったのだろう。決して不自然なことではない。
 それに、味方は多い方が良いと言うことは、今日嫌というほど分かった。
「もし、何かあった時は、尾浜を盾に逃げれば良いから。大抵の人は私でどうにかできるけど、たとえは七松先輩とか七松先輩とか七松先輩とか……」
「俺を殺す気なの? 五十嵐は」
 諏訪にそう言うと、後ろからそんな声が聞こえてきたが、私は無視した。そして、諏訪の手を引き部屋に戻る。
 月が傾いていた。
「あのさ、ごめん、諏訪」
 あの日も、こんな夜だった。そんなことを思いながら謝る。
「全部私のせいだ」
 首を傾げる諏訪がこの言葉の意味を知っているはずがない。私はそう思っていた。あの"記憶"を持っているのは私だけだ、と。
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