委員長代理とお兄さん

委員会対抗戦の段


 善法寺先輩は荷物をほとんど持って下さった。善法寺先輩本人も包帯だらけなのだが、本人曰く怪我は酷くはないらしい。善法寺先輩は何故か上機嫌だった。
「うかない顔をしているね」
 医務室で薬湯を淹れてながら、善法寺先輩はそう言った。
「お気になさらないでください」
 いつもの調子でそう答えると、善法寺先輩は心配だなぁ、と言いながら、薬湯を出してくださった。
「久々知は品行方正で、真面目ですごいと思うけど、逆に心配だよ。嫌なことは吐き出さないといけないよ。程々に力を抜かないと」
 ね、と善法寺先輩は微笑む。励ましてくれているのだろうか。気を遣わせてしまって申し訳ないと思った。
「本当にうちの伊勢とは大違いだよ。成績も良いし、あの子に君の爪の垢を煎じて飲ませたいよ」
 あはは、と笑う善法寺先輩に耐えられなくなって、私は切り出した。五十嵐がこのようになってしまったことの一因には私たちの業がある。
「善法寺先輩、すみません」
 そう言うと、善法寺先輩は目を丸くした。どうしたんだい、と不思議そうに尋ねる。
「低学年の時、五十嵐をからかっていて、五十嵐を泣かせていたみたいで。昨日も、潮江先輩に負けた時に物凄く落ち込んでいて」
 さっきは泣いていました、とそう続けようとした時、善法寺先輩が突然笑い始めた。
「あはは、そんなこと気にしてたの?」
 善法寺先輩は豪快に笑った。その笑い方は食満先輩に似ていた。いつもこんな風に笑っているのかもしれないが、食満先輩の印象が強くて気付いていなかったのかもしれない。
「伊勢も幸せ者だね」
 善法寺先輩のあまりの反応に呆然としていると、先輩は笑うのをやめて微笑んだ。
「そんな壊れ物扱うみたいにしなくて良いから。別に、見た目強いけど中身は弱いなんていうそんな裏設定ないからさ」
 私は善法寺先輩が私を慰めようとしているだけだと思った。
「大体、鉢屋が気付いたってことは、すすり泣いていたってことだろう」
 おそらく、と答えながら、私は先程の光景を思い出した。
 五十嵐はすすり泣いていた。
「あれは悔し泣きだよ、悔し泣き。放っておけば良いんだよ」
 善法寺先輩は明るく笑った。意外だった。この人は人の怪我に敏感で、面倒見が良くて心配性だと思っていた。だから驚いた。
 明るくて少し大雑把なところが五十嵐と重なった。
「要注意なのは声なく涙だけ流している時か、思いっきり声出して泣いている時かな。まぁ、それでも泣いて自己完結できる子だから、放っておけば良いよ」
 嘘を言っているようには見えなくて、ただ私が五十嵐を心配するのがおもしろいようだった。
「どうしようもない子だけど、根が悪いわけじゃないんだ。良かったら仲良くしてやってくれないかな」
 善法寺先輩は頭を下げた。私は驚いた。なぜ、善法寺先輩が頭を下げるのか理由が分からなかった。ただ、安心してしまった。


「久々知、見舞いに来たぞ」
 医務室の戸は静かに開けとあれほど言っているのに、容赦なく乱暴に開けるのは五年ろ組の竹谷八左ヱ門と伊勢。
「食満先輩のお詫びの饅頭」
 五十嵐は包みを、竹谷は予算明細を持っている。
「薬湯淹れたけど飲む?」
 そう尋ねると、案の定、二人は首を横に振った。伊勢は足を怪我しているし、竹谷も全身傷だらけだから、飲んで欲しかったが、普段から薬を飲みたがらない二人は飲むはずがない。
「久々知はちゃんと飲んだよ。五年生で素直に飲まないのは、君たちと鉢屋ぐらいだよ」
「それ五年生の半数ですから」
 竹谷と伊勢が二人で声を揃えて言い返すのを見て、久々知が笑っていた。久々知は口元に拳を当てて隠すように控えめに笑っていた。それぞれがそれぞれらしくて、私は少しだけ安心した。
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