女装少年と六年生

委員会対抗戦の段


 食満先輩を最初に見たのは教室の廊下だった。そこからは実習に行こうとする二年生が見えた。伊作が遠慮気味に小さな集団の後ろについていくのを見ていると、前の方で誰かと喋っていた一人の二年生が、いきなり声を荒らげた。
「七人だろ。何で六人とか言うんだ」
「使えるのが六人だっていったんだよ」
 声を荒らげた二年生は、先程まで喋っていた同級生に向かって苦無を使おうとした。すると、先程まで集団の一番後ろにいた伊作が走り出し、少年の腕を掴んで止めようとした。そこで漸く私は伊作が人数に数えられていなかったことに対して、この二年生が怒ったということに気付いた。声を荒らげた二年生は、何で止めるんだ、と今度は伊作に向かって怒り始める。
 私は見とれていた。初めてだったのだ。自分以外に、伊作のことで怒ってくれる人を初めて見たのだ。私はその二年生に対して、嬉しいという感情なのか、高揚感なのか、親近感なのか、よく分からない感情を持った。これらの全てに当てはまるような気もしたし、当てはまらないような気もした。私は五年生になったが、この感情を表現する言葉を得ることができていない。
 誰かに組手を見ても貰おうと思った時、真っ先にあの人が思いついたのもそれが理由だ。
 私にとって、六年生はあの頃とほとんど変わっていない。


 結局、六年生は収拾がつかなかったらしい。下級生たちを無事に学園まで連れて帰って来た火薬委員と生物委員に予算が半分ずつ渡されることになった。妥当な判断だろう、と思いながらいつもよりもゆっくりと風呂から出た。そして、ゆっくりと出たことを後悔した。
 庭を挟んだ廊下から聞こえてきたのは、聞き慣れた激しいやり取りだった。普段は何も言わずに通り過ぎることが多かった。ただ、今回は無理だった。
「そうやってお前が伊作にきつくあたるから、あいつが遠慮するんだ。俺と二人の時は、あんなこと言わねぇ」
 食満先輩と潮江先輩が廊下で言い合いをしていた。食満先輩は医務室に行ったのか包帯を巻いていたが、潮江先輩はそのままだ。後輩や同級生、中在家先輩や七松先輩、食満先輩は包帯を巻いているところを見たことはあるが、立花先輩と潮江先輩はない。無用な争いを避ける立花先輩はまだ分かるが、食満先輩とやり合っている潮江先輩は怪我をしているはずだ。
 その理由は分かっている。
「それはお前だからだろう。成績も同程度だからな」
「そう言う話をしているんじゃない」
 潮江先輩の言葉に食満先輩がさらに声を荒らげた。
「実力を考えれば五年の方が良いんじゃないか。そうすれば、あの仲良しな妹と……」
 静まっていた感情が湧きあがる。それも、以前の数倍にもなったものが。私はそれ以上の言葉を聞く気がなかった。私は足音など全く気にせずに廊下を走って部屋に戻った。
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