帰って来た女装少年

夏休みタソガレドキ潜入の段


 腹部が酷く痛んだ。朦朧とした意識を取り戻そうと起きあがる。ぼんやりとした視界の中で、雑渡さんがいなくなったことを確認した。
「伊作、ありがとう。みんなは無事?」
 伊作の腕を振り払うようにして起き上がり、そう尋ねる。伊作のことだからまた泣いているのではないかと思ったが、伊作は冷静だった。
「乱太郎の足だったら大丈夫だ」
 猪名寺が伝令役らしい。足が早い彼なら大丈夫だ。
「タソガレドキは園田村に向かう。忍者だけじゃなくて本隊も向かうと思う」
 忍術学園側がどこまで情報を把握しているのかは分からない。
「乱太郎にはそれを手形さんに知らせに走ってもらっている。私たちも急ごう」
 流石忍術学園だ。そう思った時だった。がさがさと大人数が走ってくる音がした。
「鉢屋、不破、みんな」
 ぱっと鉢屋が表情を明るくしたのを見て少し嬉しくなった。
「五十嵐、いい加減にしろよ」
 五十嵐はしょうがないなぁ、と鉢屋は頭をぐりぐりにした。鉢屋は私や不破にそうやるのが大好きだ。頭巾の舌の髪がぐちゃぐちゃになったが、私は気にしなかった。
 体の力が抜けた。
「生憎、私は天才ではないからね。課題をこなすのも大変でさ」
 安心させるようににやりと笑う。それでも終わったんだ、と完成した解読表を押し付けるようにして見せる。
「小松田さんが宿題を混ぜてしまって、兵助はナルト城で大怪我して帰ってくるし、みんな心配してい……」
「久々知は無事?」
 ナルト城は防御が堅固な上、とにかく兵数が多いのだ。
「無事だ。お前のことを心配していた」
 あっそう、とだけ答えると、不破までもが頭をぐりぐりと押し始めた。
「五十嵐先輩」
 学園の後輩ならば、大体声だけで分かる。
「黒木、夏休みはどうだった?」
 久しぶりの後輩にそう尋ねた。
「喜三太がオーマガトキ城に捕えられています」
 山村が、と思わず聞き返す。ドクタケ城に捕まるのとではわけが違う。
 ただ、私には他に言うべきことがあるように思った。
「それは辛いね」
 黒木の表情はいつもと変わらない。もう、彼は乗り越えるべき山を越えている。私はきり丸や加藤、笹山や佐武を見た。みんな表情はいつもと変わらず、敢えて言うなら私がいることに驚いているようだった。
 強い子たちだ。
「新学期、来ない子がいることほど堪えるものはないよ」
 新学期、久しぶりに会うことになるのだ。期待をしながら学園にやってきたのだろう。
 は組一人一人の子の顔を思い浮かべながら。私もそうだった。
「勿論です」
 ただ、彼らは山村の生存を信じて疑っていない。現実を知らないわけじゃない。恐れをしらないわけじゃない。
 疲れた顔を隠さないのは忍者としてはどうかと思うが、この子たちには敵わないなぁ、と思った。



 あの忍たまのことが脳裏に焼きついて離れなかった。一旦戻った陣の中で、あの忍たまのことを思い出した。
「包帯、とれかかっていますよ」
 巻き直しましょうか、という声は聞き慣れた声には似ているが、聞き慣れた声ではない。
 陣左の弟だ。声が似ているのは当然だった。今は彼と距離を取る現当主であるが。
 断る理由もなく、直属ではないとはいえ部下である。頼むと、喜んで、と愛想よく包帯に手をかけた。しかし、なかなか包帯が外れない。何か問題があったのかと問うた。
「いえ、すみません。上手く巻かれているなぁ、と」
 昨日は五十嵐が巻いてくれた、と言おうとしたが、それよりも先に漏れたのは違う言葉だった。
「まさか、ね」
 他人の巻いた包帯を解くのは難しい。しかし、彼女はあの忍たまの巻いた包帯を簡単に解いた。
「ところで君は何でここにいるの?」
 包帯を解き終わった彼にそう問うた。
「五十嵐さんが見当たらないのです」
「組頭、どこへ?」
 そのまま陣から出ようとすると、そう尋ねられた。
「君のおかげで訊きたいことが増えた」
 向かうのは園田村。連れていくのはごく少数。他は待機だ。何も言うつもりはない。
 五十嵐伊勢は、あの時に簡単に包帯を外した。そして、私があの忍たまのところに向かうことを知っていた若い忍者。確信は持てないが、そうであるとしか考えられない。
 問えば彼女は答えるだろうか。くノ一に向かぬ彼女だ。しかし、私たちを上手く出し抜いた彼女だ。答えは予想できない。
 ただ、怒りはなかった。ただ純粋な興味があった。あの忍たまと近い関係にある忍者。一体彼は何のために、彼女は何のために、二人の関係は何なのか、とただ純粋に知りたいと思った。
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