戦場の白

夏休みタソガレドキ潜入の段


 五十嵐はよく働いた。武器商として来てもらったものの、結局は忍器の手入れ役として雇うことになった。戦が始まっても、五十嵐は忍器の手入れを続けた。
「よく働くよね、本当に」
 そう言うと、仕事ですから、と緩やかに微笑んだ。
 そして、ちょうどその日、私は大怪我をした。これはすぐに止血しなければだめだ、というのが、くらくらする頭でもすぐに分かった。視界は霧がかかったかのように薄らとしている。そんな中、ふらりふらりと戦場を彷徨うと、包帯を巻かれた人間がずらりと横たわっていた。タソガレドキもオーマガトキも関係なく。
 一体誰が、何のために。
 ゆっくりと視線を上げて行くと、一人の山伏の後ろ姿が見えた。旗を引きちぎり、包帯にしている。
「その包帯、少し貰えぬか」
 山伏が振り返った。こちらを見た山伏は少年だった。白い頭巾から顔を覗かせる黒い癖毛の少年。釣り目で、まだ顔には幼さが残る。尊奈門よりも若いだろう。
「こちらへ……さぁ、傷の具合を見ましょう」
 当然のことのように少年は言った。
 少年は慣れた手付きで私に包帯を巻いた。大量の出血で視界はかすんでいて、まるで別世界のように見えていた視界は、次第にはっきりとしていく。
 少年は、もう助からないだろうオーマガトキを抱えていた。私でも助からないことが分かったのだから、少年に分からないはずがない。
「助からないよ」
 それでも私は敢えてそう言った。少年の答えを知りたかった。
「助かります」
 私の言葉ではなく私の言葉に対するオーマガトキの呻き声に答えるように少年は言った。
 死に瀕したオーマガトキの兵は少年とほとんど変わらないか、僅かに年下かどちらかだった。
 少年はまるで私から庇うかのように、オーマガトキの幼兵を抱いた。そして、大きな黒い釣り眼で私を見上げた。敵意はない。しかし、味方に向ける目ではない。険しくはない。しかし、穏やかでもない。
 私が立ち去るまでオーマガトキの幼兵を抱えるその姿が脳裏に焼き付いた。



 陣に戻り、五十嵐に使いこんだ武器を預けに行った。武器の手入れを尊奈門に頼まなくても良いのはありがたい。苦無を磨いていた五十嵐は私を見るなり目を丸くした。
「怪我なさっているんですか?」
 立ちあがり、私から武器を受け取ると、包帯の巻かれた私の腕を眺めた。紅く染み渡る血に顔色一つ変えず、ただじっと包帯を眺める。
 この時は何を見ているかなんて深く追求しなかった。そのようなことを考える必要性も感じていなかった。
「夕方になったら包帯を替えましょう。薬草を準備しておきます」
 ごゆっくり休んでください、と五十嵐は笑った。
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