斯くして過去の人となる


 俺は山南さんのことを知らなかった。奥州出身で、北辰一刀流の免許皆伝であることは知っていた。しかし、それ以上のことは知らなかった。
「私には古い友人がいましてね」
 江戸へ行く電車の中で、山南さんは微笑を浮かべながら語り始めた。
「北辰一刀流の方ですかィ?」
「いや、確かに北辰一刀流の友人も一人いましたが、あとの三人は我流でした」
 流派の違い。それは、確かに俺たち真選組の中でも存在したと思う。俺と近藤さん、土方さんの三人と山南さんは違う流派だった。
「仲良かったんですかィ」
 そう尋ねると、山南さんはくすりと笑った。
「悪かったですよ。毎日喧嘩ばかりしていました」
 楽しいですけどね、と山南さんはとても幸せそうに笑った。
「我流と北辰一刀流で、ですかィ?」
 恐る恐る尋ねると、山南さんは首を横に振った。
「いいえ、そのように割れたことは一度たりとも」
 俺はその言葉を聞いて、何故かとても不快になった。彼が嬉しそうに語る昔の仲間に対する嫉妬だろうか。
「山南さんにとっては俺たちとどちらが大事ですかィ?」
 そう尋ねると、山南さんは全てを見透かしたような目で俺を見た。それも酷く不快だった。
 山南さんに酷いことをやった俺たちに、山南さんの昔の仲間を妬む権利などないのに関わらず、それを山南さんに見られてしまった。
「沖田君は酷なことを尋ねますね」
 しかし、山南さんは苦笑いをするだけだった。
「どちらも大切ですよ。どちらも私の一部のようです」
 その言葉を聞いて、その笑顔を見て、安心すると同時に、苦い後悔が滲み出てきた。
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