隣の首は疎ましい


 山南は道場時代からの仲間だった。山南は俺たちと同じように近藤さんを慕っていた。
 山南は俺と違い、子どもが好きだった。昔から子どもが好きで、総悟を可愛がっていた。総悟も山南を慕っていた。
 山南は読書が趣味で博識だった。何も考えずに近藤さんについて行く俺たちと違い、彼は立ち止まって考えるのが好きだった。真選組に入ってもそれは変わらなかった。
 山南が悪い奴だとは思っていない。かけがえのない仲間だ。優しく、隊士からも慕われる副長だった。市中での評判もよかった。子どもが好きで、非番の日には総悟を連れ出して公園に出かけていた。
 山南には助けられた。俺たちが疎い政治面にも強かった。幕府への資金申請や企画申請などの交渉も書類作成能力も桁違いだった。幕府のお偉方を唸らせるようなキレ者で、俺たちは何度も救われた。
 北辰一刀流の剣の達人で、俺たち芋侍とは違った剣を使った。大規模な流派のため、人脈も広かった。
 だからこそ、同じ副長としては疎ましかった。武力行使を嫌う山南と意見が対立することが多くなった時、俺は近藤さんを説得して、山南を総長へ「格上げ」した。
 決定権を局長を、指示権を副長が持つ中で、お名前だけの総長。
 自分が疎んじられていることを理解していた山南は、その職を受け入れた。それでよかったんだ。自分が納得する仕事だけしてくれればいい。副長として疎んじてはいたが、真選組の隊士として、武州時代の仲間として、俺は山南を必要としていた。山南はそれも分かっていたようだ。
 隊士に指示を出す、変わらずに頭脳派隊士として働き続けていた。
 だからこそだろう。
「今日からこの真選組参謀に就任していただく伊東鴨太郎先生だ」
 何故、俺はあの時に近藤さんを止めなかったのだろう。
「きっと敬也とも仲良くなれるだろう」
 仲良くなれるはずがないことは俺がよく分かっていた。俺ですら、あいつが嫌いなのに、俺よりもよく似ている山南が受け入れられるはずがない。
 伊東に依存していく真選組の中で、山南の存在は薄くなっていった。
 そして、ある日の朝、俺の部屋の戸が開いた。
「早いじゃねぇか、総悟」
 基本的にお越しに行かなければ起きない総悟が、確りと隊服に着替えて俺の前に立っていた。
「土方さん」
 いつものように表情は薄かったが、そのいつもに増して淡々とした声から嫌な予感がした。
「山南さん、出ていきやしたぜ」
 夢にも思わなかった結果じゃない。俺は予想していた。ただ、何の策も練らなかっただけだった。
「逃亡は切腹だ。止めなかったのか?」
 俺は、総悟を責めるかのように言ってしまったことをすぐに後悔した。総悟だけが悪いわけではない。総悟よりも俺の方に責任がある。それぐらいは理解していた。
「俺たちに止める権利があると思ってやしたんですかィ?」
 総悟は近藤さんを慕うように山南を慕っていた。しかし、総悟は俺を責めるようなことはしなかった。
 後悔の念が大きかったのだろう。
「総悟、山南を連れ戻せ」
 俺は山南に甘えていたのかもしれない。そして、今もそれは変わらない。
「分かりやした」
 総悟は間をおいた後にそう答えた。
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