道場の友より、盟友へ向けて


 山南とは道場時代からの仲間だ。仙台藩から来たという若い侍は気さくで、わしとはすぐに仲良くなった。わしらの道場は剣術は勿論のこと、思想家が多くいた。それだけではなく、様々な知識を持っている者がいた。
 山南は思想にも強かった。そして、多くの者に交わって様々な知識を得ていた。わしのように経済だけに強いような人間ではなく、山南はどの分野にも強かった。ただ、剣はわしの方が強かった。そうは言っても、山南も十分強かった。
 その後、攘夷戦争でも共に戦った。山南は銀時や桂、高杉ともすぐに仲良くなった。誰と一番仲が良かったかは分からないが、山南は銀時を好いていた。
 山南の長所は自分の物差しで全てを測らないことだろう。山南は自分の得意分野である知識力で人を測らない。山南と気があったのはそういうこともあっただろう。北辰一刀流は水戸藩の保護下にある大流派だった。プライドが高く、流派に拘る者が多かった。知識の有無で人を見る者も多かった。しかし、山南は違った。山南はそれらの空しさを知っていて、それ故、自分と異なる銀時を慕っていた。銀時は気付いていなかったかもしれないが、わしらは皆気付いていた。
 彼女が真選組入ってからは暫く連絡を取っていなかったが変わりはないようだった。相変わらず穏やかな微笑を浮かべていたが、一騒動あって真選組を抜けたことは桂から聞いていた。
「宇宙海賊さんかー。わしらの敵じゃからなー」
 山南をわしの船に招待すると、早速宇宙海賊春雨について尋ねてきた。彼女は真選組を抜けたはずである。
「その分、動きは確りと把握していますよね」
 つまり、彼女は個人で動いていると言うことになる。
「当然じゃー」
 彼女は無茶をするような人間ではない。しかし、話すべきかわしは迷った。彼女個人でどうかできるようなものではない。
「江戸に関わる情報はありますか?」
「裏は取れちょらんが、幕府と密約を結ぶっちゅー噂はある」
 わしは迷ったが、結局話すことにした。旧友に嘘を吐くのは躊躇われるし、何よりも山南を信頼していたからだ。山南は自分が関わることのできる範囲を知っている。
「時期は?」
「一カ月後ちゅー風に聞いちょる」
 そう答えると、山南は目を細めて口角を上げた。山南が自分の予想通り情報を手にされた時にする笑顔だ。
「ありがとうございます、辰馬」
 山南は賢い。わしと同じぐらい経済に強く、ヅラと同じぐらい古書に強い。そして、高杉に負けぬくらい軍略に長ける。山南の能力は斬り込みには向いていない。山南はそれをよく理解している。自分の能力がどのくらいなのかをよく知っている。
「無理は禁物じゃから」
 ただ、心配だった。
「銀時にも怒られたばかりなので、程々にします」
 少しだけ嬉しそうに山南が言った。そういえば、最近は銀時のところに身を寄せているらしい。
 銀時のところには子どももいるから、楽しいのだろう。
「銀時に怒られちょったかー」
 銀時が山南を怒っている姿を想像すると、何故か笑いがこみあげてきた。
「銀時だけじゃのうて、ヅラも高杉も山南心配しちょるからのお」
 そう言うと、山南は嬉しそうに笑った。山南は本当は女子だが、そうは見えない。昔からそうだった。男に負けない、というよりは男に紛れることができるような女だった。
 しかし、こういう時は女子だと思う。人に大切にされている、と素直に喜ぶことができるところが、山南の女子としての最大の美点だろう、とわしは思っている。
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